ちょっと映画を観に行ってきました
ちょっとタイトルを『結婚できない男』の金田風にしてみました(^_^;)。知らない人は意味不明でごめん。
昨日の午後、ちょっと時間が空いたので、映画を観に行こうと妻を誘い、彼女が何を観るつもりかと聞くのでとりあえず選択肢は二つ。『墨攻』と『それ僕』のどちらかと言ったら、『墨攻』がいいというので、ああ、やっぱりねという感じで、まずは『墨攻』を攻めることにする。いや、もちろん僕はこれも観たかったのだ。少なくとも『どろろ』よりは観たい。というわけで、3時から6時までマイカルにお出かけ。
以下、勢いでネタバレするかもしれないので、これを観るつもりの人は読まない方が無難。
僕はこれ、原作となった小説を読んでいない。確か十年くらい前に森秀樹さんによって漫画化されたものを、1巻読んだだけで、しかも続いて買わなかったのは、多分最初に僕が期待していたものに比べて、意外と話の展開が地味だったからかもしれない。もちろん漫画の1巻はまだ話がまったくのイントロ部分だから、その後、どのようなスペクタクルが展開されたかを知らずにそんなこと言うのは、作家さんにとっては不本意に違いない。
でも決してつまんなかったわけではないのだ。その証拠に僕が、墨家というものに興味を抱いたのは、この森さんの漫画がきっかけだったのだから。特に墨家の思想の中にある「非戦非攻」の精神は、日本の憲法にも通じるではないかというありきたりの感想を持ったおかげで、少し調べることになり、趣味が高じてとうとう『続戦国』の関ヶ原編では、墨家の子孫が日本に渡来したことにまでしてしまった(^_^;)
ま、そんなお茶目な個人的エピソードはともかく、映画の感想である。最初に言っておくと、実はこれも僕は結構期待して観に行った。理由の第一は、まず日本映画ではないこと(T.T)。それから、この話がやはり僕の大好きなパターンであるということだ。
『フラガール』でも少し書いたが、アクション映画にはアクション映画なりの、やはり黄金のパターンというものがある。中でも一番燃えるシチュエーションが、「多勢に無勢」パターンだ。数で劣る主人公側が、圧倒的な物量の敵を前にして、勇気と知力の限りを尽くして戦い抜くという展開で、近年でもこのパターンに沿って『アラモ』とか『武士(ムサ)』なんて映画が作られたりしている。ええ、もちろん『続戦国』大坂城編もこのパターンが念頭にあるともさ。ただし、このパターンの空前絶後の傑作は、やはり『七人の侍』をおいて他にないだろう。
で、『七人』を比較対象にすればどんな映画だってハードル高すぎるので、そこは妥協して考えるとして『墨攻』の話。主人公の革離は墨家の男である。墨家とは中国の春秋戦国時代、まだ秦が全土を統一する前だから紀元前の話だが、この頃、中国に現われた思想家、墨子の教えを守る、いまで言えば教団のようなものだ。この時代は日本の戦国とはまた違う、中国らしいスケールの大きさで国が興亡を繰り返していたから、様々な武器の発達、戦術戦法の進化とともに、この乱世をどうするかという切実な要求から、後の中国史に影響を与えることになるほとんどの思想が、この時代に現われた。多少時代は前後するが、たとえば儒家の祖、孔子とか法家の祖、韓非子、また、現代のビジネスマンまでお世話になってるらしい孫子もこの時代の人だ。墨子も、そんな百花斉放な思想家群の中に現われた一人である。
墨子が面白いのは、周り中、互いに隙あらばつぶし合い、あるいは疑心暗鬼になっているような戦国時代の状況にあって、「非攻」の精神を説いたことだ。これは簡単に言えば要するに侵略するなということである。ただし、この時代に攻めるなと言われてそれを守れば、攻められて滅ぼされる事態になりかねない。ところが墨子は口先だけで理想を唱える思想家ではなかった。「非攻」の精神を守っても国が滅ぼされないように、彼は築城や土木の技術を学んで、あるいは元々、そういうガテン系の階層の出身者であったのか、とにかく城の防御能力を格段に高めるエキスパートになった。彼はその技術を弟子たちにも伝え、そして各地に派遣した。彼らは各城の王族に面会し、伝える。墨家の教えを守れば、百万の敵が押し寄せてもびくともしない城壁を築いて差し上げようと。墨家の築城技術の高さは評判を呼び、諸侯は競って彼らを自分の城へ招いた。とまあ、歴史的にはそういうエピソードを残している集団であるらしい。らしいというのは、実はこの集団はけっこう謎の部分が多く、しかも教団としての墨家は始皇帝の頃だったかに、忽然と絶えている。
ここから本編の話だけど、物語はその戦国時代、小国梁の城が、趙国の大軍に囲まれるところから始まる。梁王は墨家に助けを求め、すると一人の男が派遣されてくる。これがアンディ・ラウ演じる革離である。王から指揮権を得た革離は、見事な作戦で押し寄せる十万の大軍を、わずか四千の兵で翻弄する。しかし彼は、外ばかりか内側にも敵を抱えていた。と、一言で言えばこんな感じ。
正直言えば60点。妻の採点はもっと辛いかもしれない。僕はもともとこういう話が好きな分、甘めにはなっている。でもせめて80点くらいにはしてほしかった。
まず全体の脚本が弱いというか、妙にぬるいというか、実際に城の攻防戦が始まってからも、テンポがどうもペースアップしてこない。それと城の全体像が一度も画面に出てこないので、いったいどれほどの規模の城がどういう地形に立っているのかわからず(セリフでは一応説明されるんだが、映画でそれはまずいっしょ)、主人公たちがいまどういう場所にいるのかわからなくなることが再々あった。もっと言えば時間のつなぎ方もけっこう乱暴で、これはその直前のシーンとどれくらい時間が離れているのかがよくわからない場面が頻繁にある。アクション映画でそれはけっこうつらい。
革離の戦術も、緒戦のシーンではけっこう見せ場を作るものの、だんだんそこらへんが希薄になって、中盤では登場人物たちのセリフ芝居がメインになってくる。ラストで一応最後の山場を作るけど、はっきり言って、なんであれで勝てたのか意味不明。もうご都合の典型で、革離が勝ったということを見せるためだけの(あるいはそのために悲劇を招いてしまったということにするためだけの)戦闘シーンでしかなく、あれじゃ趙軍随一の戦術家だったはずの将軍が、ただのまぬけにしか見えない。
そこまでの制作費がなかったのか、単に演出が下手なのかはわからないが、城の全体図を見せずに、戦闘と言えば決まった門の内外での戦闘場面しかないものだから、何だか微妙にスケールのちっちゃさ感がある。兵隊にはあれだけCG使ってんだから、せめて一回くらい趙軍が襲いかかる梁城の俯瞰を見せるべきだろ。そういうCGの見せ方というか、使い方では『ロード・オブ・ザ・リング』は圧倒的にうまかった。
とまあ、文句は言い出せばいろいろあるが、キャストは僕は案外良かったと思う。特に革離を演じたアンディ・ラウ。僕はこの人の映画を何本も観ているが、この人の顔自体、特に好きなタイプではなく、役者としてそれほどの魅力があるようにも思えなかった。だが今回のこの役は、けっこうハマっている。ストイックな墨家の男を、いい感じで演じていた。もう一人目立ったのは、革離に抜擢されて弓隊の隊長になる男。名前は知らないが、なんかやたらかっこいい。『ロード』で言えば、レゴラスの役にあたるのかもしれないが、弓の射手は男前に限るという、何か僕の知らない新たなお約束でもあるのだろうか。
ヒロインはいまいち力不足だった。いままでこういう役をやるのはチャン・ツイィーのほぼ独占状態だったが、さすがにそれではまずいと思ったか。可愛いことは可愛いから、多分向こうのアイドルみたいな人だと思うが、なにしろ役柄は近衛騎馬隊の隊長である。凛々しさ、強さ、はかなさ、どの表現にもいまいち感があった。もっとも、仮にこの人の役をチャン・ツイィーがやったとしても、脚本と演出があれでは、いずれにせよ報われなかったかもしれない。
それでも僕は一応、この映画を合格点にはしてあげたい。日本の小説家が書いた古代中国の話を、本家の人々が映像にしてくれたのだ。こういう形の日中合作映画を観るのは楽しい。そういえばこの映画が始まる前の予告で、角川のチンギス・ハンを主人公にした映画をやっていた。モンゴル風の衣装を身につけた反町が日本語で何かセリフを喋るたび、こちらの心が冷えていくのがわかった。なぜにいまチンギス? なぜに反町!?
« 資料作成中 | トップページ | ひたすら眠い(-_-)゜zzz… »
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 新番組雑感その1『DOCTORS』(2015.01.18)
- 最終回2本(2014.12.20)
- 健さん死すの報に触れて(2014.11.20)
- 今期のドラマは・・・(2014.10.27)
コメント
この記事へのコメントは終了しました。
ほらね?ケンカしてもすぐに仲直り。うらやましい。
投稿: 敬 | 2007年2月25日 (日) 04時59分
ほらね? 敬さんも取り込み中のはずなのに、ネットばっかぶらついてない?
……同病、相憐れんでおります(^_^;)
投稿: ujikun | 2007年2月26日 (月) 05時21分
ネットが私の妻です。
今回は〆切2,3日遅れそう。漫画家は大変なんです。
これから7時間の仮眠。
投稿: 敬 | 2007年2月26日 (月) 11時54分