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海外旅行はもういいや

そういえば先週上京して、軍事評論家のOさんと打合せしていた時、今年の春にまたモンゴル行くので一緒にどうですかと誘われた。実は彼には去年の秋にも誘われている。モンゴルでは一般観光客用の射撃場に軍が協力しているので、普通の拳銃や小銃の類ばかりではなく、いわゆるロケット砲やバズーカ砲まで撃ち放題だというのだ。去年は実際、僕も仕事が立て込んでいて断わったが、彼は一人でモンゴルの砂漠に出かけ、今年の彼からの年賀状は、その砂漠をバックにRPG砲を担いだ彼の勇姿だった(^_^;)……よっぽど気に入ったのね、モンゴル。

多分今年も僕は断わると思うが、それは僕が戦争小説のようなものを書いているくせに、武器銃器類にまったくといっていいほど関心がない、ということだけではない。それだけなら僕は、一応関心はなくても好奇心はまだある方だから、そういう機会があるならということでほいほいついていくかもしれない。そもそも飛行機が嫌いだ、という理由は大きい。昔から、平気で飛行機に乗って旅行に行ったりする人間が僕は信じられない。あんなもの、落ちたら終わりじゃん、という恐怖心は僕の中に抜きがたくある。飛行機事故に遭う確率なんて、宝くじに当たるよりも低いですよ、と助言してくれた人間がいる。だったら宝くじ買わなきゃ絶対当たらんじゃん! 当たるかも知れないものを、何が悲しくて自分で金出して買わなきゃならんのよ! と答えたが、宝くじにたとえられた時点で、反論の論旨も意味不明になってしまった。だって、宝くじって、当たりたくて買うんだよな。

もっとも大きいのは、飛行機が全面禁煙になってしまったことだ。僕は飛行機に乗ると異常に煙草を吸う。ニューヨークに行った時なんか、12時間くらいのフライトで1カートンほど買っていたハイライトの半分近くを吸ってしまった。おかげで向こうではハイライトの禁断症状に陥ったが、毎回、死ぬかも知れないと思いながら空を飛んでるわけだから、せめて煙草くらい好きに吸わせてほしい、という心情が働いているのだろう。だから飛行機が全部禁煙になったと聞いた時は、ああ、これでもう二度と飛行機に乗ることはなくなったな、と心に決めたのである。ところで。

それで思い出したが、僕が初めて飛行機に乗ったのは23か24の頃だった。その頃僕は、エロ雑誌の百貨店と呼ばれる出版社の下請け編集部で働いていて、その時期はもう、漫画雑誌を一冊、ほとんど任されていた。その名を『悦楽号』という。

『悦楽号』は、僕が手がけた当時で公称20万部。実際はもう、11~12万部くらいの刷り部数で、実売6~7万部くらいだったと思う。いわゆるエロ漫画誌(人によっては三流劇画誌という呼び方をする人もいるが、僕はこの呼び方が嫌いなので、人に説明する時は常にエロ漫画誌と言うことにしている)の黄金時代というのが70年代の中期から80年前後にかけてあったらしいが、僕が入社した頃には、そんなブームはとっくに終わっていた。黄金期には『悦楽号』も2~30万部出していたという話を聞いたことがあるが、僕はそんな社内を肩で風切って歩けるような時代を知らず、部数をじわじわと減らされていって、10万部を切るようならもう廃刊の話が出るぞ、という上層部からの脅しに怯えながら、日々過ごしていたというのが、僕の編集者時代の記憶だ。

業界時代の思い出話を聞きたいというリクエストが、去年、某飲み会で会った女性漫画家さんのアシさんから出されていたので、いずれそういう話もおいおい。今日の話は、『悦楽号』そのものがテーマではない。

それで確か23~4の頃、僕の大学時代の友人からいきなり会社に連絡があり、おまえ、アメリカに行かない?と聞かれた。何だよ、それ? と聞き返したら、彼は年末にサンフランシスコに行くのだが、何人か人数がまとまると安くなるので、一緒に行ける人間を探しているんだと言う。へえ~、いいなあ。いつ? と聞くと、詳しい日時は忘れたが、確かクリスマス頃に出発するとか言った。それ、電話してきたのはもう12月に入っていた頃だ。あと2週間くらいしかないじゃないかよっ。

とりあえず考えさせてくれと言うと、もうあんまり時間ないから、今日中に返事が欲しいとのことだった。いったん電話を切った僕は上司である編集長に相談。この編集長という人が、可愛い子には旅をさせろという方針バリバリの人だったので、話は早かった「それは君、行った方がいいよ!」え? でも仕事が……「仕事なんか片づけていける。出来ない所はカバーするから、さっさと行ってこい!」こんな感じで僕のアメリカ行きは即座に決まり、友人に電話し直した。じゃ、一応行くことにするから。友人は「なら、急いだ方がいい。おまえ、パスポートとか持ってないだろ。それに大使館でビザの申請もしなきゃならんから、それ発給されるまでに半月くらいかかるからさ」おまえ、それ、ぎりぎりじゃん(T.T)

僕はまだそれでも初のアメリカ行きを決めるまでに数時間の余裕があったが、友人がまだ人数足りないので他に誰かいないかと頼まれ、僕が電話したK鈴さんというエロ漫画家の場合はもっと悲惨だった。なにしろもうほとんど電話口で決めさせた。彼もまた、初めての海外旅行だったはずだが、その決断に許された時間は5分くらいだったと思う。てゆーか、後々、彼はそう言って僕を責めた。

僕とK鈴さんは、代理店でビザ申請も頼んだので、向こうが代行してビザを取ってくれたのは何と出発当日だった。その出発日、確か4時頃のフライトだったと思うが、僕は2時過ぎまで会社で仕事をしていた。僕がその日出発であることを知っていた事務の女の子が逆に気にしてくれて、とうとう編集長が「君、羽田から行くんだろ? もう出た方がいいぞ。新幹線じゃないんだから」と言いだし、ようやく会社を後にしたが、考えてみたら海外旅行だからって特別に何か準備したわけではなく、荷物はいつも会社に持って行く肩掛けのバッグ一つだけであった。中にはメモ帳とカメラと雑誌くらいしか入ってない。ま、必要なものがあれば向こうで買えばいいやくらいに思って、その足で羽田に向かったが、ゲート前では友人やK鈴さんら、今回一緒に行くメンバーだけが、青くなって待っていた。「おまえ、何やってたんだよ! もう飛んじゃうよ!」それが僕を見つけた友人の一言であったのだが。確かに、飛行機に乗ってから感覚的には10分くらいで飛び上がった気がする(^_^;)

実はこの時のアメリカ旅行で一番印象に残っているのは、入国審査だった。もちろんそんなものは初体験だし、入国する前に、1対1でアメリカ人の係官と話さねばならないなんて、この時、初めて知った事実だ。友人は何度もアメリカと行き来している男なので、一応僕に事前のレクチュアをしてくれた。「何しに来たとか聞かれたら、サイトシーングとだけ言っとけ。それから仕事は何かと聞かれたらカンパニーマンとか言えばOKだから」

その効果あってか、飛行機が無事サンフランシスコの空港に到着し、入国審査の順番が来た僕は、多少緊張はしたが、とりあえず係官の質問を無難にこなしていった。サイトシーング。ワンサーザンダラー、アイハブ。てな具合に。質問が終わりに近づいた時、ふと口髭を生やし、丸顔の係官は僕にこんな質問をした。「What's your occupation?」 ・・・はあ? 思わず日本語で聞き返してしまった。

「What is your occupation?」

係官は、僕が英語を聞き取れなかったのだろうと察して、もう一度ゆっくり発音し直してくれた。いや、会話は聞き取れたのだ。だがこの時僕は、occupationの単語の意味を度忘れしてしまい、どうしてもわからなかった。

オキュペイション・・・ええと、オキュペイションって・・・何だっけ?

おきゅぺおきゅぺと呟きながら逡巡する僕を見て、係官はその単語を説明するべく、また違う言い方をしてくれたが、そっちの方はもう忘れてしまった。だがとにかく、彼のおかげで突然僕は思い出した。オキュペイション!それって、職業のことじゃないのか?

オー、マイオキュペイション? 係官はにこりともせずに僕を見つめたまま「Ye~s」と深くうなずく。僕はこの時、その単語の意味がわかったことで冷静さをいささか失し、友人があらかじめ教えてくれていた注意をすっかり忘れていた。

マイ オキュペイション イズ ・・・エディター!

「Editor?」係官の表情が、急に興味深そうな顔に変わった。その瞬間、僕は過ちを犯したことを悟った。そうだ、友人にはくれぐれも、係官が興味を持ちそうなことを言ってはダメだと釘を刺されていたのだ。だがもう遅い。係官は重ねて訊ねてきた。

「What is your magazine's name?」 ・・・はあ???

焦った。こいつは僕の雑誌の名前を尋ねている。

マ、マイ マガジン?

本気か? という思いを込めて聞き返したが、係官は相変わらず僕を見つめて「Ye~s」と頷く。

ユ、ユー リアリィ ワント トゥ ノゥ マイ マガジンズ ネーム?

「Ye~~s」

う~ん。う~ん。僕は冗談抜きに唸った。気分はマジッすか、旦那? てな感じである。でも、何か答えないとここを通してもらえないかもしれない。海外初心者である僕は、真剣にそう思って悩んだ。こいつは僕を、ニューズウィークかニューヨーカーの編集者だとでも思ってるのだろうか。いや、こんな英語の下手なアメリカの雑誌の編集者がいるわけない。じゃ、こいつはいったい、何のためにそんなこと聞くんだ。しばらく悩んだが、やがて僕は意を決することにした。

ユー セイ ユー ワント トゥ ノゥ マイ マガジンズ ネーム

「Sure」

オーライト。オーケー。アイ アンダスタンド

僕は両手を開いて、軽くデ・ニーロ風のジェスチャをしてから、一気にこう言った。

マイ マガジンズ ネーム イズ・・・エッツラックゴウッ!

係官はほんの一瞬、きょとんとしていたが、やがて自分の知らない名前の雑誌だと思って興味を失ったのだろう。書類にスタンプをぽんと押し、「Next!」と言って、向こうで並んで待っている次の人間を手招きした。

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コメント

なんか超お忙しいはずなのに、怒濤の更新ですねー。
そのエネルギーを仕事に回して下さいませー。
編集さんが待ってますー。

うぅう……何か更新するたびに、非難のつぶてが飛んでくるような(T.T)

でもね、これ逆に言えば、最近いかに僕がパソコンの前から動いてないかってことでもあるんすよ。何か行き詰まるたびに、そうだ、京都に行こう、じゃなくて、そうだ、ブログに行こうとか思っちゃうわけで(^^ゞ。その点ではほんと、ブログってお手軽です。

ま、言い訳なんすけどね。ええ。そういや僕も昔、敬さんにはずいぶん待たされましたもんね~~え(^_^;)。まさしく、因果は巡るという言葉を、自分で体感しとるところです。

すんません・・。w

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