« 梅雨のひぬま | トップページ | 素敵な新党(^_^;) »

妻の送迎をする

昨日は雨、ときどき大雨の天気。昼休みでバイト先から戻ってきた妻が、雨でまったく前が見えなかった~、恐かった~などと愚痴るので、それなら午後の出勤は僕が送迎してやろうかというと喜ぶ。しまった。このくそ忙しい時に、生半可な口を滑らすものではなかったと思うが、後の祭り。

妻は僕がどんなに顔を土気色にして、うんうん唸りながら大幅に遅れた〆切に心を圧迫された状態であろうと、あまりそういうことを真剣に斟酌しない。いや、まあ人がどういう状態かくらいはわかっていると思うが、たとえそんな時でも、自分がふっと思いつくと、どこそこへ昼ご飯を食べに行きたいだの、部屋を片づけろだの、何々の払い込みを早く済ませてこいだの、平気でぽろっと口に出す。

出された方は〆切の圧迫感に加え、妻の要望によって削られる時間に思い至ってさらに暗く沈んだ気分になる。たとえそれが1時間程度の時間でも、いざ仕事とまったく関係のない時間を過ごさざるを得なくなると、ああ、早くあれをしなければ、早く仕事に戻らねば、という思いで頭は一杯になり、そのことでまた気分が鬱々としてくるのだ。そのくせ家にいるとなかなか文章が浮かんでこずに、ただぼーっとリビングで録画しておいたテレビ見てたりもするのだが。

ま、この数ヶ月、ずうぅぅぅぅっと僕はこんな悶々状態が続いているので、妻にしてみれば普段とそう変わらない僕にしか見えないのだろう。実際、僕はプレッシャーがあまり顔や態度には表われにくい体質である。かわりにすべて体型に表われる体質だが。

それに妻は悪意や自分勝手を言うタイプではなく、一言で言えばそれは、基本的に無邪気な女性であるということに尽きる。結果的にそれは悪意か自分勝手で言ってるとしか思えんような言動をすることも多々あるが、それも本を正せば彼女の無邪気から発したものであると思えば、たいていつじつまは合う。そもそも彼女が相手でなければ、本来独身を貫くはずだった僕が、結婚などというものをしてしまうわけがない。喩えて言えば、全身に強力な装甲をまとい、勝手に触れれば誰であろうと銃撃するぞと脅してまわっていたような僕の前に、突然ガンジーみたいな丸腰のおっさんが現われて、どう対処していいかわからなくなってしまった。僕の結婚とはつまり、そのようなものである。

僕たちの結婚には、式も披露も、外向きにするようなことは何一つしていないが、もちろんそれは妻が望んだからでもあるものの、僕自身の理由としては、この結婚が2年も3年も無事に続くとは、ほとんど思っていなかったせいもある。

当然の話だが、僕は結婚するのは初めてだったし、相手が誰であろうと、僕は必ず結婚生活を破綻させるタイプの男であると、あの頃は半ば本気で思い込んでいた。それがあんた、先月の18日で僕らは結婚16年目を迎える。「なみだ坂」の連載も当初、僕が書くようなしんねりむっつりした話は読者に嫌われて、多分半年ももたんだろうと予想していたのに、すでに7年目。今週書く話は350話である。

まともに単行本を出してくれる出版社だったなら、とりあえず自転車操業の生活費とは別に、一財産くらいにはなっていたはずだが、それはまあただの愚痴。どうも物事と言うのは、最初に過大な期待をしない方が、うまくいくケースがままあるようだ。

午後2時に妻を車で彼女の勤務先まで送り、そのまま八幡の喫茶店で夕方まで3時間ほど原稿を書き、退社時間である午後5時過ぎに、また彼女を迎えに行く。そういえば公職を退いてからの父も、よく母が園長を務める保育園に送り迎えに行っていたなと思い出す。多分、あれは暇だったんだろうけど。

「迎えに来てくれて助かったあ~。私、最近鳥目なのよ」
助手席で妻は、ほっとしたように言う。
「だからけっこう、夕方の運転とか見えにくくて」
仕方がないよ。お互い年取ったんだ。無理しないように気をつけて走らんとな。
「困るのがさ、夕方アピアの前とかで人に挨拶された時。向こうは会釈してくれるんだけど、私、誰だか見えにくくて、時々うまく返事が出来ないことあるの」
そんなことは別に困る必要ないだろ。僕はハンドルを握りながら答える。俺なんか誰に挨拶されたって、ほとんど返事なんかしないし。
「あなたは最初から誰も覚えてないっ、てゆーか人の顔覚える気がないからでしょうがっ!」

せっかく鳥目になったと言って弱気な妻を慰めてやろうと思ったのに。人の善意を怒鳴って返すとは、失礼な女である。

« 梅雨のひぬま | トップページ | 素敵な新党(^_^;) »

ノンセクションの50」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

2018年10月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
無料ブログはココログ