『上意討ち』見ました
『上意討ち 拝領妻始末』
夏頃に録っていたのにずっと見るきっかけがなくて、そのままハードディスクのこやしになっていた作品。が、いったん見始めたらやはり力のある作品のおかげか、最後まで引き込まれた。'60年代後半の作品だがあえてのモノクロ。理不尽な武士の宿命に抗い、壮絶な死に様を見せる男の物語、しかも監督小林正樹とくれば、どうしてもかの傑作『切腹』を思い出してしまうが、実際展開……というより話の構造自体、『切腹』に非常によく似ている。もしやと思って調べてみたら、原作も同じ作家だった。しかも『切腹』の公開の方が'60年代前半と早かったみたい。僕は『上意討ち』を見終わって、てっきり『切腹』が後かと思った。正直、これならやっぱ『切腹』の方が面白いんじゃないかと思ったためで、僕はこの監督は『上意討ち』を経て『切腹』にたどり着いたのかと何となく連想したからだ。
とはいえ、それはこの作品がつまらなかったといってるわけではなく、もし『切腹』を知らなければ、僕はこの作品も結構楽しんだと思う。なにしろ配役豪華。主役は三船敏郎。その息子に加藤剛。藩主の勝手な理屈で加藤さんに下げ渡された側室を司葉子。この当時ならそれぞれピンで主役映画が撮れた。三船さんの親友で剣のライバルでもある男を仲代達也とくれば、もうクライマックスはこの二人の対決以外にあり得ない。てゆーか、なんべん対決してんだこいつら。クリストファー・リーとピーター・カッシングか?
どうしても話が『切腹』との比較になってしまうけど、この2本ともに、主人公は親父である。『切腹』で主人公を演じた仲代さんは、実の息子ではないけど自分の娘婿だった木村功の仇をとるため、三船さんは理不尽な運命に翻弄された息子加藤剛の名誉のため、それぞれ強大な権力、一藩相手に戦いを挑む。二人とも怒りに目覚めるまでは、つつましい生活を送る浪人だったり、何の事件も起きない平凡な毎日を過ごす役人だったりと、つまり決して目立った存在ではない。なのに、ひとたび剣を取れば、もうほとんどこの親父たち、無敵。大江戸ランボー野郎に大変身。この強さが半端じゃない。私、こういう話は大好きです。
思えば'60年代。普段は頼りなげだったりろくでもなかったりするけど、いざとなれば息子のために頑張っちゃう親父の存在はまだまだ説得力を失っていなかった。いまは親父は存在感を失くしているか、下手に頑張るとモンスターなんて言われてしまう。ちなみにモンスターなになにとかって言い方、誰が広めたのか知らないが、僕はあの呼び方は好きになれない。
教育現場や小児科あたりで流行りのモンスターペアレントまたはペイシェントという言葉の場合、親が子どものために頑張るのは当たり前の話で、原則的に言えばそれは自分の子どもに無関心な親よりは正しい親のあり方であるはずだ。それが単に自分勝手な理屈と主張をしているだけかどうかは、個々の事例によってそれぞれ当事者間でどちらの言い分に正当性があるか議論するしかないのに、モンスターなんて言葉が使われると、少なくとも第三者はその時点で、ああしょーがない人とか残念な人がまた文句言ってるのかというイメージを先入観として持ってしまう。レッテルは先に貼った奴が強い。同時にそれ以上の議論を封じる効果もある。おまえの母ちゃんデベソの理屈だ。
確かに誰かをやっつけようと思ったら、時に非常な効果を発揮することもあるため、僕も昔は人にレッテルを貼るのが好きだった時代があった。が、いまは滅多なことでは使わないように気をつけている。当然の話だけれど人間ってもっと複雑なものだと思うからだ。ネット上の言説ではこのレッテル張りが大流行だ。だから書いている人間のお里の判断に使えるという効用はある。そもそもモンスターって何だよ。長ったらしいし、日本語でもない。モンペとか略せばいいという話ではない。どうしてもなじりたければ、堂々とバカ親とか言えばいいではないか。
『切腹』が『上意討ち』より面白かったと感じた理由は、物語の構成が僕の趣味に合ってたということだろう。『上意討ち』は下級役人三船さんの日常から始まり、やがてこの一家が巻き込まれることになる騒動の火種が順を追って語られていく。画面も城下、城内、役宅、平原と状況の拡大に合わせて展開していく。一方『切腹』はまるで舞台劇のように、基本場面は彦根藩上屋敷の庭先だけだ。そこにふらりと現われた謎の浪人仲代達也が、昔話でもするように自分の身の上を語り始める。演繹法と帰納法とでも言うべきか。僕らも家老の三國連太郎と一緒に、彼の語る話が果たしてどんな展開を見せるのか、つい興味を持って聞いてしまう。やがて明らかになっていくすべての因果と、クライマックスの大殺陣。
僕が書く物はどうしても自分で納得しながら順送りに物語を進めていくことが多いので、こういう構成には憧れてしまう。ま、やっぱり趣味の問題です。
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