どうした? アメリカドラマ!?
昼休みで仕事から戻ってきた妻と、買ってきた弁当を食べながら、昨夜録画しておいたアメリカドラマを見る。
いやあ、最近見ていた韓国ドラマも次々終わったし、『24』も新作はまだだし、何か新しくハマれるドラマを探してはいるのだが、『LOST』も『プリズンブレイク』ももうシーズン3とか4とか進んでいて、いまさら途中から見る気は起きないし……と、思っていたら、ちょっと前からテレビでレンタルのCMを始めていて、ふうん、どんなもんだろうとちょっと気になっていたシリーズを、たまたま昨夜仕事中に番組表を見ていたら何と第1話が始まるというので、慌てて録画しておいたと。タイトルを『BONES』という。
早い話、これも『CSI』などと同じく犯罪鑑定物。ただしこちらはチームではなく、主人公が骨の鑑定に関しては天才的な能力を持つ女性文化人類学者で、警察の依頼を受けて遺骨から事件の真相を解明していくという。ま、検死官の骨限定バージョンみたいなものだろうか。でもCMを見ると、何かこれも大人気ドラマで、もうシーズン3とか4とか出来ているというから、それなりに評判の作品であることは間違いないのだろう。せっかく第1話から見られるなら録っておくかと、予約設定は毎週録画にする。
で、妻と見始めたのだが、実は開始3分くらいで僕はもう、嫌な予感がした。冒頭、ある女性が空港で誰かを迎えに来ていて、その飛行機の到着予定時間がわからないのでカウンターの男性職員にその便の到着時刻を尋ねるのだが、職員はいろいろ忙しいらしく、彼女の質問をなかなか聞こうとしてくれない。するとその女性は職員に自分を注目させるため、いきなり自分のコートの前をバッと開く。コートの下はブラジャーというか、ほとんど下着だけしか着けていない。驚いた職員は作業の手を止めて初めて彼女に注目するというツカミなんだけど……。安い。どうしようもなくこのキャラ、安い20年前の劇画のイントロなら許せるが。
もちろん彼女がヒロインでないことはわかってるが、それでも主要キャラだからこういう肉付けをしていることは間違いない。てことは、主人公のキャラ付けはこれよりさらに濃いものになるのではないか。そう思っていたらその場にすでに到着していたヒロイン登場。どうやら彼女は主人公の研究室のスタッフか何かだったらしい。ヒロインはグアテマラで虐殺された人々の人骨鑑定に出張していて、いま帰ってきたということだ。そんな話をしながら空港を歩いていると、突然後ろから屈強な男に呼び止められる。
男は理由も言わずにいきなり彼女の腕を取り、ちょっと来いと引っ張ろうとするが、引っ張られた弾みで彼女の持っていたバッグのチャックが開き、中から黒焦げの頭蓋骨が現われる。なんじゃこれはあっと男が驚いて、さらに彼女の腕を引くと、彼女はマーシャルアーツばりの格闘術で男の腕を逆手にとり、男の腹と股間に2、3発蹴りを入れて、男の体を俯せに倒し、腕を背中側にひねって固める。と、ほぼ同時にどこにそんなに隠れてたんだと言いたくなる空港警備員みたいのが十人くらい集まってきて全員拳銃で彼女に狙いをつける。倒された男は政府の職員だと名乗る。で、いやおうなく彼女は事務所に連れて行かれると。
こういうキャラの付け方は、漫画の原作なんかやってるとさんざん目にしてきた。もちろん自分でも似たようなことをしたことはある。でもこれって、僕の感覚で言えばもう30年くらい前のセンスだ。その頃、つまり僕が漫画原作という仕事を最初に意識した頃、漫画界のセオリーは小池理論に代表されるキャラ至上主義がほとんどすべてであった。その影響はいまだに根強く漫画界には残っている。
たとえば新人編集者が、持ち込みの新人の原稿を見て、面白いのかどうかよく判断はつかないんだけどとりあえずどこが問題かうまく指摘できないときに、一言「キャラが立ってない」と言えば、いっぱしの編集者らしく見えるという、非常に便利な言葉でもある。あの頃、小池先生は、開いて2頁以内に主人公のキャラが立ってない漫画はもうその時点でダメみたいなことも言われていて、それじゃ3頁目から主人公が出てくる漫画は書けないじゃんとか思ったりもしたものだが、とにかく新人の頃の僕らは、編集部に作品を売り込むために、わざわざ冒頭で主人公にあり得ない性癖を付けたり、一見真面目なんだけど、横を犬が通った瞬間、飛びついて噛みつくようなキャラを書かざるを得なかった。
もちろん僕はキャラを否定しているのではなく、作品の最も重要な要素はどれだけ魅力あるキャラを作り出せるかという点であることにまったく異論はない。だが仮にもアメリカで大ヒットしたドラマだと言われれば、僕は日本のドラマが50年かかっても追いつけないレベルにある作品だろうと勝手に予想してしまう。ところがそんなドラマの冒頭で、まさか30年前に日本の劇画で流行ったようなキャラ付けを堂々と見せられるとはまったく思ってもいなかったものだから、ちょっとぎゃふんとしてしまったという話。
ちょっと前に篠原涼子主演の刑事ドラマがあって、実は僕は女刑事物をいつかやりたいと思っていたものだから、ちょっと興味があって第1話を見た。そしたら冒頭に銀行で強盗事件か何かがあって、犯人が人質を取って女性客だったか女性行員だかの頭に拳銃突きつけながら、近づくなあとか叫んで膠着状態に陥っているところに颯爽篠原刑事が現われる。まさかなあと思っていたら案の定、いきなり問答無用で犯人を撃つとか、確かそんなツカミだったと思ったが、僕はその時点で興味がなくなってチャンネル変えたから、その後、どんな話になったのかしらないし、タイトルも覚えてない。『BONES』の冒頭は、ほとんどあの時と似た感覚を思い出した。妻に見せていたのは僕だから、僕が赤面するほどちょっと恥ずかしい感じになったというか。恐る恐る妻を見たら、彼女は「『ヴォイス』よりまし」と言って、この時点では平然としていたが。
つまり、僕が言いたいのは単なるキャラ付けのためだけに、こんな手垢のついたエピを盛り込む手法は、まだ有効なのだろうかということだ。こういう展開は30年前ならともかく、僕には刑事ドラマでいつまで待っても現われない新任刑事が、実はその署の留置場から現われる場面をいま見せられるのと同じくらい、陳腐にしか思えない。陳腐な冒頭はたとえそのあと、いかにハラハラドキドキの展開を見せるドラマになろうと、全体のチープ感のみ印象に残ってしまう。第一印象は重要だ。よく、彼の第一印象は悪かったけど、いまは結婚してしあわせでーす、みたいなことを平気で言う女がいるが、絶対あれは嘘だと僕は思っている。特に女はね、第一印象悪かったら、死ぬまで悪いですからっ、普通。第一印象だけで、あの人嫌いって一生言い続けられるのが女という生き物ですからっ!!! ……何を興奮してんだ、俺は。
実際このドラマ、とりあえずそのまま第1話は見きったが、やはり冒頭の予想を裏切らない出来であった。ヒロインが骨の鑑定分析で行なうホログラム復顔や、実際被害者が死ぬ前に、どんな動きをしたかをやはりホログラムCGで再現してみせる技術など、もしかしたら本当にそんなことが可能なのかもしれないけれど、僕には全部絵空事に見える。全体の詰めが甘く、キャラの会話も含めて内容的にチープな感じが漂っているためだ。
たとえば『CSI』なんかでもかなり高度な分析技術が登場するが、あれは現在確立されている技術をCGで画面的に何倍も派手にして、面白く見せる工夫が随所になされている。『BONES』の方はなんでそんなことが可能なの? という説明がほとんどない。そもそも骨の鑑定をする人間がそんなことまで調べるのか? ここはスカーペッタの検死局並みの設備が整ってるのか? と聞きたくなる気持ちもふつふつと湧いてくるのだが。
さらに劇中、ヒロインが一人で夜中に骨を調べたり、思いにふけったりする場面で何度か叙情的なポップスが流れる。韓国ドラマじゃないんだからさっ! そんなとこでミュージックビデオにする時間があるなら、もっと話を詰め込めよ! などとつい突っ込んでしまう俺。これね、やはり一回見ただけでやめたけど、いまWOWOWでやってる『コールドケース』にすごく通底する部分がある。
先にアメリカドラマを見ると、日本のドラマは50年くらい遅れてるという気分になると書いたが、もしかしたら最近は少し事情が変わってきたのかも知れない。一つにはアメリカ、犯罪ドラマ作りすぎじゃねえのか!? 『CSI』だけ見ても、支局増えすぎ。どうせなら一つ、東京に作ってくれ。いまやってるFBIのドラマもそうだけど、何か水増し感が否めない。もちろんテンションを保ったまま長寿シリーズになっている作品もあるけど、とりあえずアメリカでヒットしたドラマだから間違いないといういままでの通念は、そろそろ変えた方がいいのか。
ちなみに『なみだ坂』のヒロインも武術は得意だが、あれはキャラ付けのためというより、僕が合気道の練習を始めたため。だから僕が自転車に乗り始めた頃から、突然、鈴香も自転車に乗っている。さらに鈴香初登場のシーンは、彼女が男を投げ飛ばすなんて場面ではなく、エスカレーターを歩いて上ってきた梢の行く手を遮り、エスカレーターを歩くな! と一喝するところから始まっている。……全部、俺!
毎週予約、即取り消し。
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