サブリミナルな夜
さて、そろそろ仕事にかかるかと、ちなみにいま金曜の午前一時ですが、そろそろ仕事にかからんと缶詰費用の元も取れんしななどとノートを開けて……まず最初にネットを覗いたりするわけですな
ま、何とか阪神も快勝したし、安心してポータルにしているサイトのニュースヘッドラインに目を通していたのだが、そこで「NHK大河にサブリミナル疑惑!?」なるタイトルが目に付いた。なんじゃそりゃと思って、思わずクリックしたくなるのは人情。
そしたらそれは夕刊フジの記事だったのだが、何でもいま放送中の大河『天地人』にサブリミナルを使ったのではないかという疑惑が持ち上がっているというニュースだったのだ。
すごく大雑把に記事内容をかいつまむと、要するに先日放送された『天地人』の本能寺の変を描いた回で「本能寺が爆発する直前、『天地人』に対応する形で空、水田、明智光秀(鶴見辰吾)の横顔の3カットが計0.2秒間挿入されており、複数の視聴者から「サブリミナル映像ではないか」と問い合わせが局に寄せられた。」(「」内は夕刊フジの記事からそのまま引用)というものだ。
で、記事ではこの後簡単にサブリミナルとはどういうものかという説明が入り、局側は別にサブリミナルを意図したわけではないので、再放送もオンデマンドによるネット配信も通常通り行なう方針を明らかにしたらしい。
僕のブログを読んでるような人なら、多分サブリミナルの説明なんかいまさらだろう。いや、それは仲間内の何か特権的な目線で言ってるわけじゃなくて、単におおよそ同世代が読んでるだろうと推定すれば、僕らの若い頃、この言葉って一時期世界的な流行語だったからだ。有名なコーラのCMの話からハリウッド映画、ニュース映像の中にまで紛れ込まれているとされたサブリミナル効果の話は、ひところ流行った様々な世界を動かす陰謀論などの言説とともにけっこうもてはやされたし、『刑事コロンボ』なんか確かこれで一度、完全犯罪を企んだ犯人がいたはずだ。
サブリミナルという言葉のだいたいの印象を知っていても、もしかしたらいまでもそういうことがあるんだと思ってる人もいるかもしれないけれど、はっきり言ってこれは科学的に裏付けされた事実ではない。僕自身は昔から、これはトンデモの類だと思っていた。ただし、放送局の倫理規定のようなものがあって、この中で「(サブリミナルのような)通常知覚できない技法で潜在意識に働きかける表現はしない」と自主規制されている。
これが単に「潜在意識に働きかける表現」をするなという話だったら、僕のやってるようなことも含め、およそ表現活動なんて潜在顕在を問わず客の意識に働きかけるためにやってるようなものだからどうなんだということになるのだが、この「通常知覚できない技法」というところがミソである。つまり上記記事によればNHKに「問い合わせ」をした視聴者の皆さんは、あれはサブリミナルではないのかと言って電話してきたらしいけれど、そもそも普通に画面を見ていてわかるような映像をサブリミナルとは言わないんだがな。
番組を録画していて45分、毎回丹念にコマ送りか何かで見ていて発見したと言うなら多少は説得力もあるが、アダルトビデオをコマ送りで見るというならともかく、ドラマをコマ送りで見て何が楽しいんだという話でもある。ちなみにアダルトビデオをコマ送りで見ると、ヌキどこの調整には非常に有用だが、ハード的には避けた方がいい。何遍もやってるとビデオのヘッドなんかすぐぼろぼろになるし、何よりテープ自体が激しく痛む。5、6回もやってるうちにはその場面だけ色がモアレしたり、輪郭がぼやけてくるから昔はレンタルで借りてきたりすると、ああ、みんなここでやってんだなあということがよくわかったものだ。って、もうビデオの時代は終わったから何の役にも立たない知識だが。
笑ったのはそのフジの記事のタイトル。「NHKにサブリミナル疑惑」という文字の前に「低迷打開に禁じ手!?」という言葉がまず最初にくっついている。僕は第一回を見ただけで挫折したから『天地人』が苦戦していようがいまいが大して気にはならないけれど、このタイトルを付けた人は、どういう意図でこんなタイトルにしたのか、それこそその人が持っているサブリミナルのイメージに興味が湧いてしまった。
だってこれ、素直に読めば視聴率低迷に苦しんでいる大河ドラマが、サブリミナル効果を使うことによって視聴率を上げようと目論んだ、そんな疑惑を持たせる見出しになっている。視聴率を上げるためのサブリミナル? それって、どういう手法が考えられる? この記事の中では、サブリミナルとは科学的に証明されていないと書いておきながら、この見出しは明らかにサブリミナルと聞いただけで、まるでフルメタルアルケミストが使う何かの技のようなイメージで書かれていないか。
百歩譲って製作サイドが、来週も大河ドラマを見ないと我慢できないのをうっ、もお体が火照って土曜昼間の再放送さえ待ちきれないのをうっ、と視聴者の体が反応するようなサブリミナルを仕込むつもりだったのだとしよう。それが何!? 「『天地人』に対応する形で空、水田、明智光秀(鶴見辰吾)の横顔の3カット」??? まず基本的にその解釈が誰の解釈でそれは正しいのかどうかわからないが、仮に正しかったとして『天地人』の人って、明智光秀のこと? 主演妻夫木じゃなかったのかよっ? ……もうがたがた。
コンマ秒単位のカットを挿入する手法なんて、アニメの世界では何年も前からありふれた手法で、たとえばエヴァゲリのオープニングなんてその塊だ。ただ僕は個人的にはあまり好きなテクニックではない。というか、その表現が有効に活かされた例を知らない。考えるなら、そりゃ確かに人が死ぬ瞬間とかに、その人間が自分の一生を回顧する手法としてはあり得る気がする。だから大河の演出家は信長最期の場面でそういう手を使うことを思いついたんじゃないかなあと、これはかなり同情的な推論である。と、ここまで書いてきてもう一度当該記事を読み直し、新たな疑問点に引っかかった。これはサブリミナル云々とはもう別の話題なんだけど。
「本能寺が爆発する直前」……
本能寺って、爆発したのかあぁぁ???
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コメント
この記事へのコメントは終了しました。
先生のサブリミナル効果についての解説(?)は非常にわかりやすく読みやすいです。
実際問題効果のないことに労力を使うのは微妙だと思うのです。
NHKというのはよほど時間に余裕のある団体なのでしょうか。
それとも純粋に映像実験をしたかったのかなとも。
知識・技術を持つとためしたくなるものですから。
乱文を失礼します。
投稿: 位置や | 2009年5月16日 (土) 10時42分
そもそも、見ていてサブリミナルと分かった時点でサブリミナルではないと思うんですが。
それよりも問題とすべしは本能寺爆発でしょう。大人は薄笑いを浮かべて終わりですが、子供は本気にするって。テストの答案に書いたらどうするんでしょうか。サブリミナル以上の悪影響があると思うんですが、そっちはスルーなんですね。
今度、歴史群像スペシャルNo.3に駄文が載ります。娘の同級生たちの愛読書ということなので、気合いが入っています(^_^;
うちは貯金8です。ごちそうさまでした。
投稿: pete | 2009年5月18日 (月) 00時33分