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コバルトの空がダークグレーな理由

思い込みというか、若い頃に何かを誤って覚えたまま、ずうっと気づかずに過ごしてしまう知識というものがある。

もちろん使用頻度の高い知識なら、それまでに何度も修正の機会はあるわけだが、滅多に日常生活に必要のない知識なら、間違って覚えていてもさほど困ったり恥をかくことも少ない。でもごく稀に、ほぼ一般常識とされるような言葉に関して、まったく勘違いしていることも、僕の場合はちょくちょくある。

いまの文章、稀なのかちょくちょくあるのか、いったいどっちなんだという悪文の見本みたいなものだが、要するにまだバレてない僕の常識知らずは結構一杯あるだろうなという予感が、ついこんな文章にさせてしまった。だけど、どれが間違っているとは自分でわからないものだから、何かのきっかけでバレる機会が来るまで、そりゃ僕だってわからない、ということだ。

わりと最近、おお、そうだったのか!() と鱗 from eyes だったのが、コバルトの解釈だ。いや、コバルト色とかいうときのあのコバルトなんだけど、僕はこれ、数カ月前までずっと、薄いグレーみたいな色のことだと思っていた。これが青系の色味を指すことを知ったときの僕の驚きったらなかったね。道理でいままでコバルトブルーという単語を聞いても、いまいちどんな色なのかイメージ湧かなかった。長年の疑問がここで一気に氷解してスッキリ。

昔の沢田研二の曲に「コバルトの季節の中で」という歌があり、実は僕はこの歌が大好きで、ちょうどその頃、好きだった女にフラれた衝撃も一緒にこの曲に込められてしまったものだから、僕の中では記憶に残る名曲ベスト3の一つという地位にある。ただ、この曲を聴いて僕がいままでイメージしていた空とは、ものすごく濃い曇り空だったのだ!

そうかあ、道理で「コぉバルトぉがぁ~、目に染みますね~」という歌詞の部分がいまいち納得いかなかったんだよなあ。てゆーか、曇り空が目に染みるというのは、僕はずっとこの歌の作中人物が、失恋のショックで涙目になっている状態を表わしたなかなかシャレた歌詞だと解釈していました。なんと、単語の意味が一つ変わるだけで、歌を聞いて浮かぶ風景が180度変わってしまった()。いずれにせよこの曲を、記憶に残る名曲として選ぶ資格、俺になし。

なぜコバルトが薄いグレーだと思い込んでいたかという部分に関して、少しだけ弁解を許してもらうと、これね、多分僕は『鉄腕アトム』の影響だと思う。御多分に洩れず、僕は小学生の頃、アニメの『鉄腕アトム』の大ファンだったわけだが、後半、アトムに家族が増えてくると、アトムのお兄さんとしてコバルト兄さんというキャラが登場するようになる。

どうして兄が弟より後に生まれるのかよくわからなかったが、それはともかくこのコバルト兄さん自体、いったい何のために出てきたのかよくわからない、ほとんど役に立たないキャラで、まるで人気絶頂の頃の貴花田兄弟のキャラ分けを見ているようなものだった。ただ、小学校低学年の頃の僕が初めてコバルトという単語に接したのは、美術関係の授業や本ではなく、この『アトム』が最初だった。そしてそれなりにこの言葉はインパクトがあったから、以後、コバルトという名を聞くたび真っ先に思い浮かべるのは、このコバルト兄さんだったのだ。そして、コバルト兄さんの体は薄いグレー系だった。なぜなら、僕の見ていた『アトム』は白黒放送だったから

ゆえにこの40年くらい、僕はコバルトって薄いグレーのことだと信じていた。ちなみにいまふと思ったが、アトムの兄妹って全員核爆弾の名前だな。思えば恐ろしい一家だ。そんなことはともかく、いまになってなぜ、このような話題を振ったかというと、先週、図書館で借りてきた本の中に、妻が勝手に昭和の歌謡曲全集みたいなものを入れていた。僕がおばあちゃんたちのところへ行って歌うのに、こういうのがあるとレパートリーが増えて便利でしょというわけだ。なるほど、それもそうかと何曲か、昭和3~40年代頃の懐かしい曲を、仕事の合間の気分転換につまびいてみる。その中に『子連れ狼』があった。

これも多分、40代以上でないと通じない話題かもしれないけど、かの小池御大原作、小島画伯の作画による原付漫画史に残る傑作『子連れ狼』をテレビドラマ化した際、橋幸夫が歌ってやはり大ヒットした主題歌だ。「しとしとぴっちゃん、しとぴっちゃん」という歌い出しのフレーズは、当時の流行語にもなった。

おお、懐かしいなあと思って、ちょっとコードを弾きながら夜中に歌ってみる。歌詞の半ば辺りに達したところで、僕は思わず、えっ? と声に出して呟いてしまった。

知ってる人は知ってると思うが、この歌は要するに、人殺しに出かけた父親の拝一刀を待ち合わせ場所で待ち続ける大五郎の様子を描いたものだ。まあ、僕はキャストと演出には大きな不満もあったものの、一応原作のファンだからテレビも見ていたので、この歌の一番くらいはほぼ頭に入っているし、覚えやすいメロディでもあるので当時は何度かそらで歌ったりくらいのことはしたかもしれない。ただ、もともとカラオケをやる趣味はないし、仮にカラオケに行ったとしても、わざわざこの歌をリクエストして歌うなんてことはした覚えがない。つまりいままでこの歌の正式な歌詞に触れたことなどないし、触れなくたって別に困ることもないのはこれからも同様ではあろう。

僕は耳コピで聞いてる分には、あの歌にそんなにややこしい歌詞があるとは、つまり聞きづらい個所や、ここどう言ってんだろと迷うような歌詞などはないと思っていた。で、僕は大五郎が、帰らぬちゃんを待っているという歌詞に続いて「ちゃあん~の仕事は~、刺客道だあ~」と覚えていた。

ま、考えてみりゃね、3つの子どもが刺客道なんて小難しい言葉遣いをするかというのは気にならんでもなかったが、なにしろ死生眼を持ってるガキだしね。それに、仕事は刺客というならともかく、わざわざ刺客道というのはちょっと違和感がなくもなかった。お仕事なんですかと聞かれて、ホスト道ですなんて応えるとんちんかんな奴に通じるものがあるしね。でもなにしろ作詞は小池御大。本編は武士道から忍者道から毒味道からもう登場人物それぞれ求道の塊。大五郎が「ちゃんは刺客道だあ」と唸っていても不思議はないと思っていたのだが。

その歌集にはしっかり歌詞も書いてあった。そして問題の部分はこうなっていた。「ちゃあん~の仕事はあ~、刺客ぞぉなぁ~」。まあ、昭和の時代に合わせてここで僕がリアクションを取るなら、さしずめ「ガッチョ~ン」というところであろうか。

ぞなかよ! これ、正確に知ってた人、誰かいる? だいたい「ぞな」ってどこの方言だ!? 僕はちゃんはちゃんでも『坊ちゃん』が教えてた学校の生徒の言葉くらいでしか知らんぞ。

そりゃ江戸は地方出身者の集まりだとは言っても、大五郎はれっきとした武家の息子だ。もちろん、一刀は武家の身分も捨て、息子にも町人か百姓風に「ちゃん」と呼ばせている。ただ、「ぞな」という言葉遣いは、大五郎がどこで育ったかという部分も含めてキャラに特殊な意味を持ちかねない。まだ「べさ」とか「べえ」なら筋が通ると僕は思う。

だいたい、本編でも大五郎はほとんど口を利かない。3つであの無口さというのは、ある種の発達障害であろう。親父は復讐に取り憑かれたパラノイアみたいなものだから、精神状態に偏りのある親子としてバランスは取れているのかもしれないが、大五郎が「ぞな」とか言ってると思うと、ちょっとイメージ狂う。これも30年ぶりくらいにして初めて気づいた、個人的な驚愕の真相であった。

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コメント

 いままで普通に「ぞな」だとおもっていましたが、なんで「ぞな」なんだよといわれれば確かにおかしいですね。

 江戸っ子なら「刺客だい」てなもんでしょうかね。浜っ子なら「刺客じゃん」。

>Pete
あ、でもあれ、「ぞな」だって知ってたんだ()。

それは大したものです。ま、だいたい僕は小さい頃に聞いた番組の主題歌の類は、聞きにくい個所があっても伏せ字で覚えるわけにはいかないので、無理矢理何かの言葉で埋めて覚える、というパターンがほとんどだから、けっこうな思い違いをしている歌なんか他にもいっぱいある。

ちなみに『エイトマン』の歌なんか僕は「怒る海、怒る大空、怒る大地」だと覚えてたし、『リボンの騎士』のエンディング曲(タラリラッタラッタラッタラ~で始まる奴)のサビ部分、「千年万年百万年、リボンでつなごう一億年」という歌詞だと知ったのは、確か30代くらいになった頃に何かの偶然で正しい歌詞を知ってこれも愕然とした覚えがある。

それまで僕は小学生の頃からあの部分は「リボンの妻子(つまこ)は一億年」だとばかり思っていた。なんか、そんな感じで子孫が繁栄していく様子を歌った歌だったのかな……と。


 リボンの騎士といえば前川陽子さんですが、mixiのマイミクのマイミクに前川さん本人がいてちょっとびっくり。

 分からない歌詞といえば、「佐武と市捕り物控」の歌バージョンでしたが、Gyaoでようやく放映されて氷解しました。作中に「ど盲」というせりふが普通に入ってくると、地上波じゃ放映できませんよね。次は「カムイ外伝」かな。

私も年齢40代半ばですが、聴いた当初からレコードもあったので、「ぞな」と認識してましたぁ。

「なみだ坂」ここんとこ読み応えあるというか、私が本来の読み方を得られたというか。
「拒否」と「不能」の違いは、私には重要なことでした。

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