世論な奴ら
8時過ぎに夕食をすませ、仕事を進めようと2階に上がったはいいが、なかなか原稿が進まず頭は悶々とするわ、くらくらするわ、ぼおっとするわで、あ、これは要するに眠いんじゃん。てことに気づき、だったらいっそ2時間ほど仮眠するかと思った矢先の午後10時前、家の電話がトルルと鳴る。
下のリビングで出たらしい妻が、階段の下に近づいてくる足音が聞こえたから、やばい、とうとうメールで連絡つかなくなったと思ったどこかの編集が、直接自宅に電話してきたに違いない、いっそ2階の窓から飛び降りてどっかへ逃げていっちゃろかしらんなどと思っているところに妻の間延びした声。「朝日新聞だって~」……はあ?
こんな時間に朝日新聞が何の用だ。いらん! うちは朝日を取っていて他の新聞に変えるつもりなどないといって断れ!
「なんか世論調査だって~」ヨロン? そんな名前の担当はいない。うろんな奴ならいっぱいいるが。「だからあなた出て~。保留にしといたから~よろしく」
妻は自分の言いたいことだけ言うと、階段の下から気配を消した。
「夜分に恐れ入ります。私、朝日新聞世論調査センターの○○と申しますが、今回の衆院選挙に関して」要するにアンケートを採らせてほしいということだ。2階で渋々子機電話に出た僕だったが、出てしまった以上は仕方がない。ここでわしはそんなものに一切協力する気などないと言ってガチャリと電話を切るほど、僕はタフな神経もしてないし。憧れのアルムおんじへの道はまだ遼遠。
「ありがとうございます。では早速ですが、今回の衆院選に対して、あなたはどの程度の関心をお持ちでしょうか。1大いに関心がある。2多少の関心がある。3関心はない」
質問ってだいたい、こんな調子。これじゃ多分、1と2を合わせれば、今回の選挙には8割以上の国民が関心を持ってます、なんて結果が出ることがほぼ見えている。まあ、そこでそんなこと言いだすとめんどくさいので、その中の選択肢から選べということなら、僕は大いに関心があるで構わないと答える。
相手のお姉ちゃんは明らかに張り切った様子であった。「そうですか。では続けてお訊ねしますが、今回の選挙であなたは投票に行くつもりですか。1必ず行く。2都合が良ければ行く。3行くつもりはない」いや、これだって行くつもりはないなんて、たとえ見ず知らずの電話の相手だとしてもはっきり断言するような人は少数派だろうと思ったが、僕は毎回の選挙には必ず行くことにしているので、これも必ず行くでいいと答える。「それでは現在、あなたは支持する政党がありますか。1ある。2ない。3どちらともいえない」
ないな。これはきっぱり答えられた。「あ、そうですか。でも、選挙には大いに関心を持たれているんですよね」こうやって多少は細かい突っ込みを入れられるのが用紙集配などと違う電話調査の特徴でもある。もちろん僕は選挙のたびに選挙には関心を持ちますよ。自分たちが生活している国の形に関わることだから。だけど、どの政党だから支持するなんて投票行動をした覚えは一度もないです。だいたいあなた、たとえばこういうアンケートで男に関心がありますかとか聞かれて、大いに関心があると答えた場合、次の質問で、ではいまつきあってる男はいますかと聞かれていないと答えたら、それは変ですか。変じゃないでしょ!? 男に関心がいくらあっても、実際に付き合ってる男はいないなんて状態、いっぱいあるでしょ?
「あ、すみません。では次の質問にいかせていただきます」さらっと流されちゃった。「ではもし、たったいま選挙があるとしたら、あなたはどの党に投票しますか?」
どうしても支持政党を聞き出したいらしいな。だからそれはまだわからないって言ってんじゃん。それぞれの党が何を主張してるかよくわからないけど、とりあえず選挙では毎回この党に投票するってのが支持政党ってことなんだろうからさ。逆に不支持政党ならありますよ。選挙権を持って以来、天地がひっくり返ってもこの党にだけは入れないっていう党なら。つまり僕の投票行動ってのはいつも、最終的に不支持以外の選択肢の中から選ぶわけで、その数はあまり多くない。その調査、不支持政党を聞く設問はないの?
「ああ、それは……ないんですよ。じゃ、あの、次の質問ですが、あなたが投票される際に、各党のマニフェストは1大いに参考にする。2ある程度参考にする。3あまり参考にしない。のどれに該当……」
まったく参考にしませんな。
「は?」
だからマニフェストなんてもの、基本的にあてにはしてないってことです。
「でも、支持政党はないんですよね」
支持政党がないから、毎回予測のつかない投票行動をするかと言われたらそんなことは決してないわけです。強いて言えば僕は何があっても不支持という、確固とした支持政党があるわけだから。
結局、その後幾つか質問された後、相手は礼を言って電話を切った。僕はこのような調査を受けるのは初めての経験だったので、その意味ではなかなか興味深い経験でもあった。実際、電話調査でももっと機械的に質問をしてくるのとか思っていたが、案外そうでもないということもわかったし。
ただなあ、今回電話ではいろいろ御託も並べたが、なんだかんだで僕のサンプルは結果としては、もしかしたら無党派層の浮動票という扱いになってしまうのではないかと、少し気になった。無党派層とは支持する政党がなく、直前まで投票先を決めずに、その場になってその時の気分や流れで投票行動を決定するというニュアンスがあるからだ。そんな連中と一緒くたにされるのは、僕は甚だ不本意である。
確かに右から左までおよそあらゆる党派と党派性的なるものを僕は忌避する傾向があるから、その意味では無党派と言われて仕方ない部分もあるかも知れないが、それはマスコミか政治学者の単なる言葉の貧困であって、この数年の選挙では無党派層の動向がキーとなるなんて解説される場合の無党派なんて、無党派という名前の党派そのものだ。だったら僕はその無党派でもやはりない。強いて言うなら非党派というところか。浮動票ではなく、不動票と言ってもらいたい。
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