ワイドショーは豊漁御礼
昨日は夜半以降、例の逃亡者が捕まったニュースでニュース番組はずっと盛り上がってたらしい。
らしい、というのは僕はその頃、仕事か何かでテレビは見てなかったからで、昨日、初めて見たテレビニュースは、午後11時過ぎに二階から降りてきてテレビを付けたときに流れていたものだ。思わずうをっ!? と叫んでしまったのは、だから逃亡者逮捕のニュースではなく、たまたまそのときトピックスになっていた森繁さん死去のニュースであった。
そのあとに新幹線で移送される逃亡者の、正確に言えば新幹線で移送される逃亡者を撮影しようとして群がる報道関係の人間たちの映像を見せられたから、ああ、なんだ、あの逃亡者はついに捕まったかとは知れたが、何となく昨日一日に起きたニュースの中で、初うをっ!? を、この逃亡者逮捕のニュースではなく、森繁さん死去のニュースに対して放ってしまったことは、AVを見ていて、男優が中途半端に腰の動きを止めたものだから、ここぞ抜きどころとばかりに放ってしまったら、実は本当のクライマックスはその後にあったというときに似た割り切れなさの感触が少し残る。
何だかこの数週間は、例の婚活詐欺女の話題を皮切りに、これがもっと盛り上がるかと思ったら続いて鳥取でも似たような毒婦疑いの女が現われたりして、こちらは変死者の中に新聞記者はいるわ警官はいるわでもっと話題性がエスカレートするのかと思っていたら、さらに話題は西に飛んでなんと島根で起きた女子大生殺人事件でヒートアップしてしまい、とどめに例の逃亡者逮捕である。日頃の主な情報入手源を朝のワイドショーに置いている僕のような人間には、婚活詐欺女はいまいったい何をしているのか、なんだか遙か遠い話題になってしまったようだ。
浜田の事件に関してはいまはあまり触れたくない。あそこは妻の実家のある町で、僕自身何度も行ったことがある。日本海に面して風光明媚な場所も多く、実に静かで平和な町なのだが、その名をこんな話題で汚した犯人にはだから激しい怒りを感じる。一言だけ言えば、こんな犯人はとっとと捕まって、一人残らず死刑になってほしい。ちなみに僕は原則的には死刑廃止の立場に近い考えを持つ人間なのだが。
死刑なんて言葉を出しちゃったから、少し余談を広げれば、例の逃亡者が捕まったとき、その男に娘を殺されたであろう父親のコメントも流れていて、お定まりのよかった、安心したとか日本の皆さんに感謝といった言葉の後に「犯人は永久に拘束されるべきだ」という字幕がニュースで流れていて、ほほうと思った。
イギリスでは死刑が廃止されている。日本の親ならきっと「犯人には極刑を望む」とかなんとか言うところだ。死刑のない国では極刑と言えば終身刑だから、イギリス人である被害者の親にしてみれば同じ意味合いではあるのだが、死刑を存置する国の人間としては、もしかするとあれを聞いて、え? それでいいの? と思った人もいるだろう。だからもしあの被害者家族の会見に日本のマスコミが混じっていたなら、てゆーか、あれは十中八九日本のマスコミの要請で開いたものじゃないかと思うのだが、ともかく誰か、日本には死刑制度があるが、親として犯人に死刑を求める気はないかという辺りを突っ込んで欲しかった。
そういやどうも最近僕は個人的に死刑づいてるようで、小池栄子の『接吻』を見た話は前に書いたけど、韓国映画にもこれとよく似たモチーフの『ブレス』という映画があって、これは『接吻』以上に僕には意味不明で、韓国映画独特のそこはかとない気色悪さがあった。どうもテーマに死刑囚が絡んでくると、制作側には思いっきり変化球を投げ込みたくなる気分が高まるものかもしれない。それらに比べると先日見た『休暇』は、極めて直球な内容。確か吉村昭の短編が原作で(間違御免)、拘置所に勤める刑務官、昔は確か行刑官と言ってたが、その男を主人公にしている。
ちなみに死刑囚というのは服役しているわけではない。彼らにとっては死刑という刑を執行される瞬間だけが刑を完遂することなので、それ以外は、つまり刑を執行されるまでは単なる勾留を受けているだけだから刑務所に収監するわけにはいかない。というわけで未決囚と同じく拘置所に勾留されることになる。ちなみに勾留と書くと未決囚留置の刑事手続のことだが、これを拘留と書くと軽犯罪などに適用される短期の自由刑刑罰のことになる。ちなみにちなみに自由刑とは自由な刑罰という意味ではなく自由を奪う刑罰のことで、懲役も禁固も皆この自由刑。ここらへんの言葉の使い方はややこしくて、弁護士TASUKEではけっこう苦労した。
で、日本の死刑執行装置はすべて拘置所にある。全部で7個所かそれくらいだったかな(疎覚御免)。ここから先は物語の話なので嘘かほんとか知らないが、主人公は結婚式が迫っていて、できれば式後に新婚旅行に行きたいと。すると、ある死刑囚の執行日がその結婚式の直前に行なわれることになり、死刑囚の体を支える役になると、特別に一週間休暇がもらえるというので、主人公は誰も進んでやりたがらないその役に、立候補してしまうのだ。この刑務官の役を小林薫。死刑囚を西島秀俊が演じている。
西島秀俊という役者さんはどちらかといえばあまり目立った役をしたことのない人だったのではないか、まあ、僕自身ほとんど日本のドラマは見ないので、そんなことを断言は出来ないが、どちらにしろ地味な顔立ちで地味な芝居をする人だという印象がある。『カナリア』という映画で、脱会した元オウム幹部みたいな役をしていたけれど、強いて言えば僕にはそこらへんの記憶しかなく、それも激しく印象に残ったという話ではない。ただ、最近では『リアル・クローズ』で香里奈の相手役で百貨店のバイヤーを演じているのだが、これが意外とおかしい。もしかするとそのうち、谷原章介の位置くらいまではいくかもしれない。
その西島くんが死刑囚を演じている。物語の中では彼がどんな罪を犯したかとか、それまでどんな人生を送ってきたかなどは一切語られない。ただ淡々と、拘置所内の死刑囚の日常と刑務官の日常が描かれるだけ。正直言って疲れたときに映画館で見ていたら絶対寝ていた。それだけにクライマックス(?)になる執行の段取り、手順を踏んで行なわれるそれらの描写は、それなりにリアリティがある。
まあ、死刑マニアの僕にしてみれば、いや、一応僕は理性的死刑廃止論者で感情的死刑是認論者でもあるのだが、あれはまだ綺麗すぎる、とは思う。ただそれでもあれを見ていて、これは死刑囚の立場に身を置くにしろ、刑務官の立場に身を置くにしろ、いたたまれんなあという感触はあった。
物語は死刑囚の周りにいるだけでもいたたまれんのに、そのうえ絞首台から落ちてきた囚人の体を、暴れないように抱きついて文字通り息の根が止まるまで支える主人公の葛藤がテーマである。その役目と引き替えに手に入れた休暇で、新妻と新婚旅行に行く男の複雑な心情を、小林薫があの複雑な表情で演じている。面白いかと聞かれたら、正直こちらも複雑な表情になってしまう。……別にオチはない。
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コメント
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先生こんにちは。
奥方様は島根のご出身ですか?私も松江の生まれなので勝手のに親近感を覚えています。
あまりぶっそうな事件のない島根県なのでいまごろ大騒ぎだと思います。いかんせん浜田は松江から見ると距離がありすぎほとんど訪れたこともないのですが。
先生に置かれても風邪など引かぬようにお体に気をつけてください。
投稿: 位置や | 2009年11月15日 (日) 16時52分