楽園の日々
昼前にそろそろ南蛮茶に仕事に出かけようかとしていたら、外のポストから新聞を取って戻ってきた妻が「Oさんが来てるわよ」と言う。え? まだいたの!? と、驚いた僕は外に出て、はす向かいの家の玄関前で掃除をしていたOくんに声を掛ける。
18の年から引っ越し人生を送っているが、隣近所とこれほど気楽に付き合ったのは40も過ぎて暮らし始めたこの町が初めてだった。一応僕が住んでいるところはテラスハウスという形態の、一戸建てが二軒くっついて一棟をなし、それが四棟ある集合住宅である。ただ、この住宅は隣町に工場のあるPホームという会社が自社の社員に対する家賃援助を行なっていて、それはいわばPホームの転勤族用の社宅みたいなものだから、いきおい住人はここの会社の社員が多いという構成にはなる。
だから社員の家族同士が仲がいいのは当たり前だが、おおむねこの数年、ここに暮らしていた家族は夫婦ともに社交的で、楽しい連中が集まっていた。おかげで妻は人見知りの上に対人恐怖の気があり、僕などそもそも人付き合い自体がめんどくさいと思ってる我が家のような夫婦でも、半分長屋のようなこの住宅の雰囲気にいつしか馴染んでしまっていた。
ところが彼らの会社がこの春、大がかりな部署の移動を行ない、そのためこの住宅からも一気に三家族が抜けて転勤していくことになった。先発の家族は三月に入ってすぐ越していったが、先週の月曜はこのブログにも何度か登場したことのある我が家の直隣のHさん夫妻が越していき、今週ははす向かいのOくんが去っていったのである。HさんやOくんとは付合いも六年近くと長かったので、送別会と称する彼らを招いての宴会は親方家で一回、我が家で一回行なったが、隣が引っ越していくだけでこんなに飲んだのは初めてである。それほど彼らもここが気に入っていたし、また互いに名残惜しいものであった。
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