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カルメンと仮免の関係?

ココスで向かいの席にいた女子高生四人組と頭に手拭い巻いて作業着姿のいかにもガテン系な兄ちゃん一人の会話中に出てきた「仮免」の言葉のアクセントがやたら気になる。

僕らは普通「カリメン」の「メン」の方にアクセントを付けて語尾上がりに発音するのだが、彼らは「カリ」にアクセントを付けて語尾下がりのアクセントになっている。ニュアンスのわかりにくい人は、メリメの小説、ビゼーの歌曲で有名なあの『カルメン』の「ル」を「リ」に直して発音してみてほしい。それです。

ちょうどこのときの彼らは、教習所の話題か何かで盛り上がっていたらしく、この「カリメン」という単語がやたら頻出して耳障りなことこのうえなかった。最初は僕は何か新しいインスタントラーメンの話でもしているのかと思ったのだが、よくよく聞いていると「仮免」のことであったと。このくそ忙しいときにそんなことよくよく聞くな、俺! と突っ込みたいのは山々だが、なにしろほんとに耳についたので、その正体をどうしても確かめたく聞き耳たててしまった。ああ徒労。

かりそめにも日本語を商売の道具にしていると、なんて大きく出てしまったが、まあ漫画の原作者だって広義の意味で日本語商売と言ったっていいだろ。とりあえず言わしてほしい。で、やはり日本語関係の話題はちょくちょく気になる。クイズQさまの漢字問題の時は飯を頬張りながら思わず画面に食い入って、「けっ、この程度のもんかよ!」とか「あれ、こいつは何だっけ?」などと言いながら一緒に問題をやったりしている。ライバル宇治原! ちょっと名前も似てるし。単なる読み書き問題なら時々俺はあいつに勝つ。でも発想力が必要になる漢字問題になるとどうしてもやくみつるには勝てない。ちょっと悔しいが、人間性で勝ってると思うことにしよう。

NHKが今シーズンから日本語をテーマにしたバラエティ番組を始めたと聞けば、だから一応は気にして見てみる。なんと司会は船越栄一郎だ。似合うのか? もっと疑問なのはサブにアンタッチャブル解散の危機の山崎とかの顔が見える。なんかね、この時点でもうNHK、何がしたいのかよくわからない。

最近のNHKのバラエティで出色の出来だったのは、なんといっても『ブラタモリ』である。タモリがNHKに登場すること自体、かなり珍しいことだが、それを差し置いても僕はこの番組で久々にタモリの底力を改めて見直すことになった。簡単に言えば他の凡百のタレントの場合、まあ民放ではそれなりにそこそこ楽しいキャラやら話術やらを見せていたとしても、NHKに出演した途端、いったい何が起こったのかとわけがわかんなくなるくらいつまんなくなるという現実がある。

この物凄さは、たとえばどれほど崇高な言葉でも、こいつが口にした途端、すべての価値を失わせる、てゆーかむしろその言葉の存在意義を疑わせてくれるくらいの破壊力を持つ逆ミダス王とも言うべき鳩山邦夫と並べてみるのは少々筋違いだろうか。そりゃま、筋違いだとは思うが、以前書こうとしてタイミング逃したので、ここで一言書いておく。

前に正義は我にありとか何とか言っていきってたことがありましたな。確かに悪徳商人みたいな顔した社長の首を斬ろうとはしていたが、そういうセリフは自分の悪代官みたいな顔をもう少し何とかしてから言って欲しかった。おかげで正義という言葉に本来内在する胡散臭さが戦争以外で明らかになるという教育的効果はあったけれど。ちょっと前には坂本龍馬になるとか何とかとも言っていた。面白すぎる。あやうくあれで坂本龍馬ストップ安になるところだった。と思っていたら幸いにも僕が心配していたほど世間は誰も相手にしてなかったようで、坂本龍馬の名前の価値はどうやら守られたようだが。

話を戻すと『ブラタモリ』が凄かったのは、そんなNHKの番組だというのに、間違いなくあれはタモリの番組になっていたことだ。チャンネルを知らずにぱっと見れば確実に『タモリ倶楽部』だと思う。製作費もタモリ倶楽部とどっこいどっこいくらいだろう。もちろん天下のNHKだ。タモリ倶楽部の数倍の製作費をかけているかもしれないが、その数倍部分はきっと本編に使ってるCG処理とオープニングだな。それ以外に金のかかりそうなところないし。いずれにせよ東京の下町をただぶらぶら歩きながら番組を成立させてしまうなんて、並の芸人に出来る技ではない。

なにより僕があの番組で楽しみにしていたのは、いわゆる民放風のバラエティに馴染んでいない、多分難易度の高い大学を優秀な成績で卒業したに違いない女性アナウンサーが、何とか必死でタモリに食らいつこうとはしているものの、そのどのコメントもがさまにもならないどころか、むしろなんかちょっとイタイなこいつと思わせるようなものばかりで、とにかく一番無難な受け答えがタモリが呟く言葉をただ鸚鵡返しに繰り返すという、アナウンサーとしてはもっとも情けない姿を曝し出しながら、逆にそのことでこちらも何か一緒にハラハラしてしまうという、でもそれなりに可愛いからどこか被虐の心を満足させてもらえるような仕上がりになっていたことである。

これは番組内の自分の立ち位置を本能的に理解して対処する、つまり必要ならば自分に天然キャラなる役割でも平然と割り振り、しかもそれを何の違和感もなくそつなくこなすフジあたりの女子アナにはなかなか真似の出来ない芸当だろう。なにしろ『ブラタモリ』の女子アナのように、いい年して、しかも大御所のサブとして番組を一つ担当させてもらっているくせに、あれほど天然に流れや空気を理解できない存在感を番組の中で醸しだし続けるためには、多分それなりの男性経験の幅狭さとか未熟さとかが必要になってくるはずだからだ。

この番組に比べれば、新しく始まった日本語テーマのバラエティ、もうタイトルも忘れちまったい! の内容は進行スタッフも貧相なら、内容も薄っぺらく、期待していたインテリジェンスのかけらもない。なんだか最近巷で流行ってるとされる言葉を何個かテーマに採りあげて、その使い方は正しいのかどうかとか、その言葉に関する蘊蓄が紹介されたりするわけだが、たとえばこの間は「させていただく」という言葉が採りあげられ、この言葉の使い方はありかなしかみたいなことを最初にスタジオの観客に多数決で聞いたりしていたのだが、最初は反対派が多かったのに、実はこの言葉は近江商人の言葉遣いに由来する由緒正しい使用法であるといった説明を聞いた後では、賛成派が増えましたあみたいな、まさにNHK的予定調和な展開。

だいたい日本語の使い方のありかなしかなど、スタジオに来てる2~30人程度の人間で決めるなよ。それから「させていただく」などの言葉が近江商人由来かどうかはともかく、真宗のおかげ思想とでも言うべき言葉であることは、滋賀近辺に住んでる人間なら何となく納得できる説ではあるが、実際僕は正しく使われている「させていただく」表現なら以前からまったく違和感は持たない、けれど近年話題になっている過剰丁寧語ともいうべき言葉は、もともとそのほとんどが誤用である。だったらその言葉の成立由来を説明した後、誤用は誤用だと明確にすればいいだけの話。

正しい使用法も誤用表現もごっちゃにして、この表現方法はありかなしかみたいなことを観客に問い、ああ、両方とも拮抗してきましたねえみたいなまとめを船越が言ったところで、だからどうせえと言うのだ!? 今後は誤用表現も許容しましょうとでも言うのか? こんな番組が通るなら、結果的に僕らは街角の様々な局面で「カルメン」のようなアクセントで発音される「仮免」という類の言葉を耳にしてイライラが募り、そのおかげで仕事が遅れ、日本の経済活動が停滞する一因にもなりかねなくなってしまうのだ。その責任をNHKはどう取るつもりか。

そんなことよりこのNHKの番組が一番ダメなのは、日本語という多少は道理をわかった人間相手でないと有効ではないテーマを扱いながら、その番組自体にインテリジェンスとセンスのかけらも感じられないことである。『ブラタモリ』にはあった。そのかわり視聴者は選んだろうが。つまり誰にでも媚びを売ろうって番組ではなかったからね。だが本来なら視聴率など気にせず、いい番組だったねと言われるような番組を作り続けられるのがNHKの最大の存在理由のはずなのだが。

というわけで、こんな番組を続けるくらいなら、さっさと『ブラタモリ』を復活してくれることを希望いたします、とNHKお客様センターには電話しないけど、こんなところでこっそりと言っておくという話。

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