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子どもを亡くした母親は、人ではなくなるのです

いきなり不穏なこと言ってますが、これは先々週の、だから今週の木曜にはもう次のオンエアがあるから2回前の『それ生き』とすっかり我が家では言い習わしているが、瑛太主演の『それでも生きている』において、大竹しのぶがもうね、やりたい放題の長台詞の中に出てきた言葉。一言一句と言うほど正確には覚えてないけど、もう少し詳しく説明すれば「子どもを亡くした母親は、母親でなくなるのではなくて……人ではなくなるのだ」と、確かこんなセリフを言うのである。
 
子どもを殺された大竹が、恐らくはそれまでずっと耐え、隠してきたその後の十年ばかりの自分の心象を、瑛太やいまの家族である段田さんを前に説明するところで、言葉の調子としては淡々と、しかしそれがかえって空恐ろしく感じるほどの表情で大竹さんは圧巻の芝居を見せる。ほんとやりたい放題。あれは誰も止められないよね。
 
多分10分以上もあったように感じたが、あれを受ける側も大変だったろうなと、少しばかり同情してドラマには満足した次第。ほんとに『鈴木先生』といい『北の国から』といい、今期は日本のドラマだけで3本も鑑賞に堪えるものがあるというのは、30年ぶりくらいでほんと、嬉しい限りです。
 
その『それ生き』で赤丸注目株の満島ひかりが出てるってんで、WOWOWで録画しておいた『悪人』を昨夜、妻と見る。
 

なにしろ監督は『フラガール』の李さんだ。演出は安心して観ていられるし、『どろろ』で最低役者の烙印を押した妻夫木くん始め、役者さんはみんないい仕事をしている。妻夫木くん、ごめん。やはり役者はいい脚本があってなんぼの商売だ。最低の脚本を一生懸命に演じたら、ますます最低に見えるだけだったという話なのだな。
 
僕よりは遙かにドラマに対して辛口で、自分にとって少しでも退屈な場面が1分以上続けば、2分目にはすでに大爆睡しているという特殊能力を持つ妻が、夜10時台の上映にも関わらず、なにしろ最後までちゃんと目を開けて見ていただけでも驚くべきことなのに、そのうえ「むちゃくちゃ面白かった」と言ったのには意表を突かれた。あの『ココリコ坂から』を罵倒した女がである。ま、あれは、人によっては罵倒されても仕方ないとは思わんでもないが。
 
映画でも小説でもそうだけれど、作られた物語に感動したり感情移入したりするのは、やはりどこかに自分と近しい匂いを感じたり、自分にもわかりそうな感覚なり考え方、これは必ずしも「わかる」のではなく、「わかりそうな」というところでいいのだが、その感触の濃淡が決定していることだと思われる。だとすれば、あの物語を見て妻が感じ入るところが大きかったのは、多分彼女は青春の時期のどこかで、深津絵里の絶望と孤独に近い場所を経験していたということかもしれない。
 
ちなみに僕は、あの映画は後半になって殺人事件の加害者、被害者それぞれの家族の物語になってから、ようやく興味を持続して観ることが出来たが、正直言えば前半はやや退屈だった。理由は単純なことである。あの物語の発端となる殺人事件、さらに犯人と後に逃避行をすることになる深津絵里も、すべて出会い系サイトで出会ったことになっている。男の妻夫木くんはまだしも、満島ひかりに深津絵里だぞ。
 
出会い系サイトで、あんな美人に次々と当たるわけないだろっ!
 
というその一点がどうしても納得いかなくて、結局前半はずっと話にノレなかった。そもそも出会い系サイトに登録して男と会いたがる女なんて、まあこれはあくまで僕のイメージだけど、せいぜい昔、秋田の方で自分の子どもと近所の子どもを次々殺した(とされる)女とか、カレーに隠し味でヒ素を入れるようなタイプの人とかね。
 
昔から人物の人相と行動には深い連関があるという確信が抜き難くあって、もちろん見立て違いだってさんざあるけど、とりあえず人は見た目だと思っている僕は、ドラマの中で深津絵里がどれだけ深い孤独と絶望を抱えていようが、所詮深津絵里じゃん、と思ってしまうのだ。どれだけすっぴんに近い感じでネクラに見せようと、あんな美人が紳士服売り場にいたら、普通はナンパされまくるだろうと。なにしろ舞台は九州だし。
 
製作者なり監督が、この役にはどうしても深津絵里の存在感と芝居が必要だと判断したのなら、そしてそれはもちろん正解なんだけど、でもねぇ……あの役をやるにはあのきれいさのためにリアリティがない。そこが強いて言うなら残念。どうせこの国では『プレシャス』みたいな才能を見つけだしてくる努力なんか誰もしないだろうから、せめて『モンスター』のシャーリーズ・セロンみたいな覚悟を見せる女優を見てみたい。

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