期待の持てそうな力作『運命の人』

本木雅弘主演の『運命の人』を見る。僕は原作を知らないが、これが例の沖縄密約漏洩事件に材を取った話であることくらいは知っている。
　
この事件が裁判になった頃、ちょうど僕は高校から大学くらいの多感な時期で、たまたまその頃、家が毎日新聞を取っていたこともあって、新聞記者という個人が国家の大嘘を暴き、そのために国家によって逮捕された事件なんだろうなあとして記憶に残っている。ただし裁判の初期の頃からこの毎日新聞のＮという記者は毀誉褒貶のある人物で、やり手には違いないがちょっとあくのある人らしいという印象を振りまく記事も、あの頃、主にライバル系週刊誌などを中心によく取り沙汰されていた。
　
そして裁判は例の、Ｎ記者と情報を漏らした外務省職員の女性が「情を通じ」たという、いつの間にかその言葉があの事件を語るキーワードとなってしまい、結果いつの間にか、国家の嘘を暴いた行為は罪になるのか否か、その行為を検証するためにあのＮ記者の記事は事実かどうか、すなわち国家は嘘をついたのかどうかという部分まで明らかになるはずだった裁判は、まるで一新聞記者が外務省の女と「やった」のかどうか、そんなことを明らかにする裁判になってしまった。
　
僕が生まれて初めて「情を通じる」なんて言葉の存在を知り、その用法をも知ったのはあの裁判のおかげであって、結果的にあの裁判は純真な田舎の一童貞少年にそんな余計な知識を一つ与えただけの役割しかもたらさなかった。
　

結局、あの裁判のことを話題にしようとすれば、当時の一般人の感覚として「ああ、あの不倫の」ということになってしまい、つまりそこまで問題を矮小化させることによって結果的に外務省と政府は、自らの重大な欺瞞から国民の目を逸らすことに成功した。
　
ちなみにこの見事な筋書きを書いて検察方針を立てた人は、もう亡くなったけど佐藤某という、ヤメ検あがりのコメンテーターで、後に民主党から議員になった人であることはちょっとした豆知識。弁護士はまだわかるが、なぜか検事も職を辞してマスコミに出てくると、妙にハト派系かリベラルを気取る人がいるが、この人もテレビに出ていた頃はそんな印象を振りまいていた。Ｎ事件の舞台裏を知れば、こんな男がどのツラさげてと思わないでもないが、まあ、どのツラでもさげられるからこの国では政治家になれるのだろう。僕が民主党を一度も支持したことがないのも、この手のことがあの党には多すぎるからである。
　
話が逸れてしまったが、『運命の人』は明らかにあの事件がモデルである。事件の構造がモデルってだけじゃなく、主演の二人を始めとして登場人物も多分、多くの対応人物がいる。政治家なんか名前を見ただけで、あ、これはあの人のことかとわかってしまう。正直言って僕は山崎豊子さんの小説自体をあまり評価したことがない。昔、何かに挑戦したけど、期待したほど文章も面白くなくて、いまでは何を読んだかも忘れてしまったくらいだ。ただしこの人の選ぶテーマのジャーナリスティック性には一目置いている。てゆーか、はっきり言って商売人やなあ～、と。
　
ましてこの時期に沖縄密約事件の物語である。タイムリーといえばタイムリー。結局沖縄が、日本にとってどれほど都合のいい存在として扱われてきたのか、自民党が騙し、民主党が裏切り続けているあの島の人々にとっては特に、このドラマがあぶりだすはずのものは深く重い。ＴＢＳがどこまで腹を決めているのかわからないが、少なくとも南極に行って犬は見殺しにしてきたけど日本人は元気もらいましたあみたいな脳天気な話よりは、僕はこちらの方に期待する。
　
とはいえいまのテレビ局に根性座った話なんか期待できないという冷静な目を持つ向きには、このドラマがただの恋愛ドラマになっていく可能性も十分予想されることだろう。でもそんなあなたにも大丈夫。なにしろこのドラマで外務省職員を演じる真木よう子が、めっちゃやたら色っぽい。登場シーンから彼女独特の目力にものを言わせ、主人公の本木を時折ちらっちらっと見るあの視線など、実にぞくっとくる。さらに昭和40年代の話だから外務省職員といえど膝上何センチのスカートを穿いているのだが、このスカートからこぼれる真木よう子のおみ足が、このドラマに何とも言えないお得感を醸し出しているのだ。僕はもう、ああっ、情を通じてえ～っ！　と心の中で叫びまくっていたね。
　
そんな情通ドラマ、『運命の人』。とりあえず今期のドラマとして視聴継続決定！