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「朝ドラ」から「ドラマ」へ

年が明け、いよいよ戦後編が始まるかと思ったら、物語はずっと戦争を引きずったまま進んでいった。もはや中途半端な展開など読めない『カーネーション』。いままでもこの作品は数々のNHK朝ドラ的なお約束を幾つも破ってきたが、ついに今週は糸ちゃんが、奥さんのいる男性との恋に突き進む展開が描かれる。
 
前にも書いたが、朝ドラというジャンルはある種のエキシビションであって、脚本の出来やら役者の演技力やら演出の切れを問うような類のものではない、むしろ問うちゃいかんものだと長いこと思っていたから、僕自身は自分から見ようと思って見たことなど、この30年以上なかった。もちろん作品によってはたまに、3ポイントのうちどれかが、あるいはそれとこれはそこそこ頑張ってると言いたくなるものもある。でもそういう場合はたいてい、クリアできてないもう一つの要素が残念過ぎる場合がほとんどだ。
 
それでもどこからか高評価が聞こえてきたりすると、商売柄やはり気になるのでちらちらと見ることになる。見たはいいが、やっぱりぬるい物語と鬱陶しいヒロインのキャラに我慢がならず、ご都合な展開を突っ込んだりしたが最後、意外と朝ドラファンだったりする妻に冷たい目で無視されたりするので、もう黙っているしかない。いささか偏見の混じった僕のイメージだが、どうせ微温的な予定調和のドラマにけなげなヒロインが頑張っていろいろする話だろ、というのが僕にとってのだいたいの朝ドラの定義だった。
 

その意味では今期の『カーネーション』という作品は、もはや朝ドラではない。一人の女性の波瀾万丈の一代記を描いた、立派なドラマである。しかし同時に、これこそ朝ドラの本道ではないかとも思うのは、僕の朝ドラ初体験が『おはなはん』だったせいだろうか。つまり朝ドラは、一人の女性の生涯をじっくり体験させてくれるもの、というイメージが、すでに小学校4年だった僕の中にできあがってしまっていたのだ。
 
ビデオもない時代だったから、どうやって僕が『おはなはん』を見ていたのか覚えてないが、確かに『おはなはん』は何度か見ていた記憶がある。特に老婆となったおはなはんが、自分の孫や子の一族と共にテレビで『おはなはん』の第1話を見るという最終回の場面はぼんやりと覚えている。あれは、もともとおはなはんは最終回で死ぬ予定だったのに、それを知った視聴者からおはなはんを死なさないでくれという要望が多数NHKに届き、それでああいう最終回になったらしい、というトピックスまで記憶にあるのは本当になぜだろう。
 
まあ、そんなことはともかく『カーネーション』はまさしく一人の女性のクロニクルとして、僕らは糸ちゃんの人生につきあっていると、そんな感じがする。主人公だけではなく、周囲の登場人物に至るまで細かいキャラ設定と芝居を立てたことによって、それこそ僕と妻はときどき、引っ越していった隣人を気にするのと同じ調子で、そういや最近、カンスケのおばちゃんはどないしてるかなあ、などとつい口走ってしまうのだ。おじいちゃんが死に、おじちゃんが訪ねてきたときも、おじちゃん、すっかり年取ってしもたなあ、などと、まるで自分の親戚より親しい感じで時の流れを思ってしまう。こんな風な感じでドラマにはまってしまうのは、7割方、自分が年を食ってしまったせいである。だがあとの3割はドラマ自身の力だ。
 
こうなってしまえば、僕らはとにかく脚本家の手のひらに乗せられ右へ左へ、ヒロインの運命につきあっていかざるをえない。それが楽しみなのはリアル人生と同じで、どこにどんな出来事が転がっているかわからないからだ。この、日本のドラマを見たら文句ばかり言ってる僕がここまでこの脚本を信用できるようになったのも、とにかく登場する人物たちが本当にそこここにいそうな連中ばかりだからだろう。ヒロインを始め、完璧な人物など誰一人としていない。みんなそれなりに弱く、それなりにずるく、それなりに一生懸命だから、つい他人事ではなくなる。
 
その糸ちゃんが不倫に走る。実際、テレビの中で関係を持たせる場面まで描くかどうかはわからないが、ここまで嘘なく本音でやってきたドラマなのだ。そこも絶対に逃げないで描いて欲しい。ただし、朝ドラなんて十中八九視聴者のメインは主婦、それも地方の保守的な中高年層の主婦も多いだろう。だから展開によってはもしかするとこのドラマ、大騒動を巻き起こすかもしれない。でも覚悟の上なんだろ? 脚本の渡辺さんにとっても、このドラマは彼女のだんじりのはずだ。
 
糸ちゃんは糸ちゃん。妙にもののわかったできあがったヒロインなど見たくもない。人を助けたり、傷つけたり、助けられたり傷つけられたりしながら、自分の人生をだんじりのように突っ走る。そんな糸ちゃんから、ますます目が離せない。

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