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何も、そんなに怒らんでも……(^_^;)

なんでも読売のナベツネさんがご立腹だそうだ。

 

『運命の人』は、主人公とその相手役となった外務省職員の女性を除き、概ねそのモデルとなった人間の名前がわかるようになっている……らしい。らしい、というのは僕は実際の騒動での、新聞記者とか弁護士などの周辺登場人物にどんな人がいたかはほとんど知らないけど、この事件が明るみに出た頃の政治家の顔ぶれならおおよそ想像がつく。想像、というよりこのドラマに出てくる役名を見たら、ああ、これはあの人のことかとすぐわかるような名前になっているおかげだが。

 

たとえば時の総理、佐橋慶作なんて名前はどう見ても佐藤栄作だが、北大路欣也が演じていると非常に違和感を感じる。だって一応悪役にしても北大路さんはかっこよすぎ。僕らの記憶にある佐藤栄作は、引退会見の時に新聞記者を全部追い出して、一人でテレビカメラの前でぶつぶつと自分の功績を呟いているどんぐりまなこの無様な姿が一番記憶に残っているような人で、僕の自民党嫌いはあの頃から始まってるから、年季だけは入っている。

 

北大路さんを別にすれば、他の人はちょいちょい、本物に似せよう、というか本物を意識した芝居をしている様子。不破さんの田淵角造は、まんま田中角栄だし、う~あ~を会話の中によく差し挟む芝居をしている柄本さん演じる小平正良なんて大を小に変えただけ。ま、さすがに名前の漢字はみな一部違えているが、笹野高史演じる福出赳雄に至っては、ぼんやりした人が見たら、え? この人だけ実名!? とか勘違いされかねない微妙さだ。てか、これ仮名にした意味があるのか? すでにフクデタケオ。早口で読んだらその時点で本名に聞こえるが。

 

ただし主人公コンビは一番手厚く名前が隠されている。まあ、主人公の行動と内面がいろいろ[フィクションとして]描かれるドラマだから、そこは彼らを慮ってのことかもしれないが、政治家連中はあんだけすぐわかるような名前にされてるのに、事件の中心だった主人公の名前が「太」くらいしかかぶってないのはちょっとずるい気もする。これがハリウッドなら、存命する関係者が何人いようと、実名主義を貫くだろう。

 

まあ向こうはそもそも公人に対する考え方と、国民文化としての映画のとらえ方が日本とはずいぶん異なるから、日本でもアメリカみたいに何でもかんでもフィクションでの実名主義を認めるべきだとは、僕は思わない(ただしドキュメンタリーと銘打った作品に関しては、僕は個人・団体問わず徹底した実名主義を希求すべきとは思っているが)。逆に、どうせ実名を出せないというなら、いっそモデルの名前を連想させないくらいの役名にすべきではないかと思っている派だ。

 

だって、露骨にモデルを連想させる名前を使っておきながら、その誰それがたとえば賄賂を受け取ったりとか、犯罪的な行為に関わっている様子を描いて、いざどっかから文句が出たら、いやそれは仮名だからとか、モデルの人とは全然関係ありませんという逃げ道に使う気満々そうで、話を作る人間としてはその、腹の据わってなさと若干卑怯な感じが嫌なのだ。それって、やってることは半端な芸人番組か何かで、あの超人気アイドルグループAのB・Cは、外ヅラと違って超タカビー女っすよ、なんてイニシャルで会話している連中と意味においてほぼ同じっすよ。

 

で、件のナベツネさんがいったい何に怒ってるかというと、勝手にモデルにされた、俺はあんなんじゃねえ、けしからん! と、一言で言えばそういうことらしい。えっ? ナベツネって出てるの!? と、僕はそのニュースを知って、慌ててTBSの『運命の人』公式サイトで、あらためて登場人物の名前を確かめた。そしたらなんと、主人公モッくんの友人でありライバルでもある読日新聞記者がナベツネだというのである。ええっ!? と、思わず僕は絶句してしまった。

 

だってね、この記者は大森南朋が演じているのだが、こいつがけっこういい感じなのだ。すなわち、傲慢ではあるが割と熱血漢で直情型でもあるモッくんに対し、大森記者は清濁併せ呑むタイプというか、時の与党幹事長田淵角造に取り入り、田淵・小平連合に曽根川靖弘を引き合わせたりという政界の黒衣みたいな怪しい動きもしつつの、体の芯では権力に近づきながらも権力を信用していない醒めた視線も持っているという、一番大人な記者として描かれているのである。正直言えば僕は主人公よりも、この大森演じる記者の方に魅力を感じていた。ところがこの記者の名前が山部一雄……ああ、確かに2文字かぶってる!

 

もうね、これってナベツネのことだったのかと思うと、大幻滅ですよ。だって山部記者、本当はけっこういい奴ぽいもの。その意味ではナベツネさんが自分で騒ぎ出さなきゃ、絶対これ、あの人のことだとは思わなかった。そもそもナベツネさんは何に怒ってるかというと、角栄、もとい角造に取り入ったりとか、あんな風に政治家とべったり付き合ったりしてないってことらしいんだが、そんなこと言ったって誰も信用しないでしょうに。むしろ、ドラマで描かれてる部分なんてまだかわいいもので、本当はもっとどろどろな関係があったでしょうと想像するのが、普通の大人というものだ。

 

なるほどあれがナベツネだと思えば、中曽根は盟友のような関係だし、つい何年か前にもその中曽根をも巻き込んで小沢と福田を組ませようとしたりとか、まったく幾つになっても懲りずに生臭いことをなさる御仁だから、ドラマの中で自分をモデルにしたキャラが、政治家にあんな生ぬるい取り入り方はしないと怒るならまだしも、自分は政治家とは一線を引いて付き合ってきたとこの期に及んでおっしゃりたいご様子、どの面下げてとまでは言わないが、そんな清廉を気取る政治記者あがりが経営に参加した途端、読売は財界、自民党関係に大きくすり寄る紙面に変わっていったのではなかったか。

 

僕は読売を実はほとんど読んだことがないので本当はそこまでのことは言えないが、読売新聞でも尊敬すべきジャーナリストはかつて、何人も存在した。ところがそういう人たちはほとんど、ナベツネが経営の実権を握るようになってから追い出されたり、あるいは嫌気がさしてやめていったりしたらしい。ま、ここらへんの情報は数年前に読んだ本田靖春さんの自伝的エッセイに詳しいのだが、なにしろこれでも高校の頃はジャーナリスト志望だったからね。大阪読売に黒田組ありとか、なぜかガキのくせにそういう呼び名に憧れていた時期もある。ちなみに僕の場合は日大法学部新聞学科に入って、朝日新聞を1年配達して、チラシを何枚もまとめて新聞に挟む技だけ上達したところでジャーナリスト志望の夢は終わった。

 

いずれにせよ、もし本当に大森さん演じる記者のモデルがナベツネだとしたら、彼はむしろ自分のイメージアップをしてくれていると、あのドラマに感謝すべきであろう。ともあれいまや、老害という言葉でイメージする有名人5本の指には必ず入ると思われるナベツネさん、時々ほざかれるたわごとは、結果的に巨人軍を滅茶滅茶にするためだけに有効な場合に限って、あんな愛すべきキャラの爺さんはいないよお、僕は大ファンですよお、などと言って、一人ほくそ笑むのである。

 

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