擬音嫌い
前回書こうと思っていたネタで、うちの近所には祇園という字があって、というつかみから入るつもりが、字の話からATOKに組み込んだ広辞苑の話になってしまった。で、今日は仕切り直し。
つまり、擬音が嫌いという話だけれど、僕は別段、日常生活の中に普通に使用される擬音が嫌いと言ってるわけではない。何かと言えば、擬音的な語感がそのまま名詞になったような言葉が僕は嫌いなのだなということに、最近突然気がついてしまったのだ。それも、嫌いならただ使わなければいいだけの話だけれど、どうかするとその言葉を耳にしただけでもいらいらしたり、そんな言葉を使ってる人間に対してさえ、思わず糸ちゃんのように小さくチッと舌打ちしてしまうような、そんな気分になるのである。
ま、そんなことを考え始めたきっかけははっきりとあって、先日、ある店に入ってコーヒーを飲んでたときのこと、さほど大きくもないこぢんまりとした店内に後から入ってきた中年男の客が、表に駐めていた僕のモンタナに興味を示したのか、カウンターにいた僕に「表のチャリンコ、あんたのか?」と聞いてきた。
僕は気に入らない相手にいきなり話しかけられたときによくやる手で、その相手の人物から顔を斜め45度くらいに逸らして視線は合わさず、いま相手が何を言ったかよく聞こえなかったふりをして「はあ?」とだけ答える。この態度から相手が察して、それ以上、かまわないでくれればありがたいのだが、えてしてそんな無礼な連中は他人の空気など滅多に読めないので、たいていはもう一度聞き直してくる。「いや、表に駐めてある……」
「自転車のことですか?」そんなときは仕方ないので間、髪を容れず僕は答える。察しのいい人はもうわかると思うが、要するに僕はチャリンコという言葉が嫌いなのだ。そして、そんな言葉を使う人間自体、あまり上等とは思えないでいるというこの心の悶悶をどうしてくれんだ、という、今日はそんな話。
もちろんこのあたりで暮らしていて、僕の自転車を「チャリンコ」、またはその短縮形である「チャリ」と呼ばれたことはいままでも何度かある。そんなときは相手との関係性に応じて「自転車」とか、「バイク」と言い直すか、あるいはまったくノーリプライの態度を取ることもある。ま、あえてバイクというと相手も自転車乗りでない限り、たいていオートバイ、すなわちモーターバイクのことと勘違いされるので、普段はほとんど「自転車」と答えているかも知れない。僕が乗っている自転車のタイプはいわゆる「スポーツバイク」なのだが。
チャリンコという呼び名がいつ頃から使われ始めたか、僕はよく覚えてない。はっきり言えるのは、僕の若い頃にこんな呼び方はなかった。高校へは「自転車通学」であって「チャリンコ通学」などではなかったし、モーターバイクを「原チャリ」などと呼んでいた奴も知らない。まあ20代の半ば頃には知識としてそんな単語があるということは、どこからか耳に入ってたのだろう。あれは妹がまだ二十歳前後の頃で、たまたま実家に帰省していた僕と話していたとき、会話の中で何かのきっかけから彼女が「チャリンコ」という単語を連発したときのことは、なぜかはっきりと覚えている。
僕はいまのヘンタイアニメの妹萌え~ブームなんかより20年以上も前に、ちょっとだけシスコンだった時期がある。そりゃあ、いまでこそ2児の母となった彼女は引きこもったオセロの黒みたいな体型になってるが、実際あの頃は兄の僕が言うのも何だけれどそこそこ可愛く、「彼女の写真」なんてものを持っていなかった僕はそのかわりに「妹の写真」を持ち歩いていたことさえある。それなのにだ。そんな妹の口から「チャリンコ」という単語を聞いた瞬間、妹が何だかそこらへんのヤンキーと同等の頭の悪い女に見えてしまったから、人は会話時、くれぐれも言葉には気を遣わねばならないという教訓だな。ま、実際彼女は頭も悪かったから仕方ないけど……。つまり僕にとって「チャリンコ」とはそれほどの破壊力を持つ言葉だったのである。
ちなみにこのとき妹は、我が郷里を走るローカル線「近江鉄道」のことを「近江ガチャコン」と呼んで、これまた僕の内心の顰蹙を買っていた。僕が通った高校のある町はこの近江鉄道の始発駅の一つだが、高校時代にガチャコンなんて単語は聞いたこともない。これは明らかに擬音を元にした、新しい造語の一つだろう。
擬音からできた単語の特徴は、端的に言えば限りなく幼児語に似ているということだ。犬を指して犬と言わず、ワンワンと呼ぶようなものである。使う人間の頭が悪く思えてしまうのは、そんなところにも理由があるのだろう。だいたいチャリンコにしろガチャコンにしろ、どうも言葉としての美しさに欠ける。勝手にこんな名前で呼ばれて近江鉄道自身はさぞかし面白くはないだろうなどと長年考えていたが、何年か前、東京へ出かける時刻表を確認するために近江鉄道のwebを調べて表示してみたら、サイトのタイトルは「近江ガチャコン」だった()
チャリンコの語源は、これは僕の独自見解で自転車のベルの音から来てるのだろうと思っていたが、さっきネットで調べてみたら韓国語語源説というのもあるらしい。向こうでは自転車のことを「チャジョンゴ」というので、その言い方が広まったのだろうと。これはどうやらチャリンコが関西を中心に広がっている言葉だそうなので、一定の説得力はある。
それならせめてベル説を支持したいところだが、どっちにしろ僕の中でチャリンコはすでにヤンキー語として登録されている。仮に近江鉄道を近江ガチャコンと呼ぶ奴は認めることがあったとしても、僕の自転車をチャリンコと呼ぶ奴は、FaceBookでいくら友達申請されようが、決して認めるつもりはないのであしからず。
でもこれは本来、FaceBookで書くべき記事だったろうか・・・()
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