うちの宝はぜぇ~んぶここにある
もう完全に見てる人にしか語りかけてませんが『カーネーション』。様々な話題と憶測を呼んで先週ラストでついに主役交代劇となったが、そのオノ糸子篇の掉尾を飾るにふさわしい絵面がちゃんと脚本家は用意してくれていて、僕なぞまあ、あの渡辺あやにしてここまでベタな絵を見せるかと、これじゃあ『さらば宇宙戦艦ヤマト』の古代くん一人特攻直前のシーンじゃないかなどと突っ込んでみたりしたものの、言いながらテレビに向かって号泣しておりましたな()
ちなみに、これ書く直前にセリフ確かめるためにもっぺん録画してある奴を見直していたら、問題のシーンでまた号泣してしまい、妻に呆れられた。もうこうなるとパブロフの犬みたいなもんで、これから後の人生、僕はいつでもどこでも千代さんが善ちゃんを見つけるシーンを頭の中で思い浮かべるだけで、涙を流せる。これならいつ役者になって泣きの演技を求められても、もう大丈夫だ。ありがとう、渡辺あや。
タイトルはあのだんじりの夜、糸子にひそかに思いを寄せるほっしゃん北村が、糸子と一緒に事業するため東京に出ていかないかと誘うのだが、それに対する糸子の返事がこの言葉。岸和田の町を離れられない糸子の生き方と、東京どころか世界に羽ばたいていく娘たちの人生を交錯させて、実に味わい深い。この場合の宝とは、思い出のことだろう。あるいは人との関わりの記憶。それらはすべて自分の歴史であり、自分の一部なのだと。老境を迎えた糸子は、その思い出と共に生きていく覚悟を決めたということだろうか。
今朝からいよいよ『カーネーション』完結編パート。登場人物も三姉妹以外ほぼ全滅。特に北村まで死んでたのは悲しい()。あんな、殺しても死にそうにない奴やったのに……。
町の風景も、小原洋裁店もすっかり平成風に変わってしまった。もちろん糸子は夏木マリ。よくこの番組の感想サイトで、オノマチでカネは終わったとか、主役交代したらもう見ないとか書いてる人もいるけれど、それはオノマチ含めて、このドラマのスタッフすべてに対しても失礼な話だろう。だいたいそんなこと言ってる人のうち何割くらいが、最初からオノマチ目当てでこのドラマを見たと胸を張って言えるのか。
ま、僕は言えるよ。実際、オノマチを見たいと思わなければ、僕が朝ドラなんか決して見るはずなかったし。前にも書いたが、オノマチのヌードだけが目当てで『殯の森』見に行った人だから()。まさきくはまだ見てないけど。てか、あんな映画、田舎のシネコン来ないっすから。
つまりね、このドラマを見て初めてオノマチオノマチと言い出した人は、それはこのドラマの演出・脚本のうまさによって、水を得た魚の如く生き生きと主役を演じきったオノマチにハマったわけで、オノマチが交代したらこのドラマは終わりだなんて極端な意見は、もう、やっぱりあまりちゃんとドラマを見る力のない人の言ってることにしか聞こえない。もちろん、そんな視聴者がいることは、オノマチさんにとってホマレであろうとは思うが。
僕はもちろん、このドラマ自体を信用しているから、最後までちゃんと見届けたいと思っている。その上でね、好きなパート、あるいはこの役者さんが演じたこれは良かったとか、そんな話はいろいろ出てくると思う。何にせよ、まだドラマは続いているのに、もうこれは違うドラマだの前の方が良かっただの何だの言うのは筋違いの話であろうさ。
でも正直言えば、気持ちはわかる。このドラマの中では誰もが平等に年をとり、死を迎えて画面の中から消えていくからね。本当はサザエさんのように、いつまでも誰も年をとらずに誰も死なないドラマを永遠に見ていたいという願望も、僕だってどこかにはちらっとある。そうすれば自分の幸福な時間もいつまでも続いてるように錯覚できるから。でもこの脚本家は、ちゃんと人間の人生を見せている。まさしく言葉の正しい意味で、これこそドラマだ。
夏木マリ篇だって僕はこのままおとなしく終わるとは思えない。きっとどこかでまた残酷な仕掛けも出てくるような気がする。僕が父を事故で失ったように。母が認知症になったように。だが糸子は、乗り越えていく。糸子が特別根性があるとかスーパーウーマンだからではない。人間だから、生きていくしかないのだから生きていく。その姿が潔い。そうだ、人間ってこうだという、業の肯定が根っこにはある。
まさかこの年になって、こんな気持ちになることがあるとは予想もしていなかった。ドラマに勇気や元気をもらったなんて、そんな素人のようなこっぱずかしいセリフは、死んでも吐きたくないものだが。とっぴんぱらり。
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