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「本気」と書いて「マジ」とは読めねえ!

先日八幡のマイカルへ見に行った映画は、ちょっと毛色が変わっていた。タイトルを『結い魂』と書いて「ゆいごん」と読ませる。

 

この映画を見たいという妻に付き合う形で出かけたが、確かに僕一人なら、今週のマイカルのラインナップからわざわざこの映画を見ようという気にはならなかったろう。まだ妻を亡くした主人公が潰れかけた動物園を買い取って再生させる『幸せのキセキ』とか戦う白雪姫でも観に行ってたと思う。ところで白雪姫、やたらTVスポットを流して白雪やシャーリーズ・セロンが喜々として演じる魔女を見せている割には、7人のこびとがどんな感じなのかさっぱりわからない。

 

白雪姫を実写でやると聞けば、真っ先に期待するのは白雪でも王子様でもなくとにかく7人のこびとだ! という人は決して僕だけではないと思うのだが。CMを見る限り、この映画はハードアクション白雪って線を狙っているようなので、7人のこびとも全員そろいもそろってむさ苦しい、初老のダイハードなナイスガイのキャストを希望。というわけで勝手にブルース・ウィリス、モーガン・フリーマン、ジョン・マルコビッチあたりが全員こびとになってる姿を頭に思い描き始めたら、あ、これは数年前に公開された『RED』のキャストだと気づいた。

 

彼ら7人のこびとは獲物を求めて森から森へ移動する狩人たち。しかし彼らはある森で、ため込んだ収穫を略奪しに来る野盗の群れから村を守ってくれと村人たちに頼まれ、命がけで戦うという……もう僕の頭の中ではいま甲高いトランペットの音がもの悲しいマーチを奏でているね。『しちにんのこびとぉぅ~っ、かみんぐす~んぅぅっ!!!』
 

『結い魂』の話でしたな。ちなみに僕は本気と書いてマジ! と読ませる類の当て言葉はあまり趣味ではない。よってこのタイトルも僕の食指が動かなかった理由の一つ。妻は朝日新聞の地方版に紹介されていたか何かで、この映画に興味を持ったようだが、朝日新聞に書いてあったら何でもかんでも偉いと思うなよ。ま、地方版に紹介されていたとおり、これは実は地元滋賀の近江八幡市に住む何人かの人生にスポットをあてたドキュメンタリー映画なのであった。

 

最近は一口にドキュメンタリーと言っても、見せ方つまり演出には様々な手練手管が使われるようになっており、下手な三文ドラマを見ているより遙かに見る者の感情を揺さぶるような作品も多々目にする。あまり客の感情を揺さぶるのはドキュメンタリーの本義から言ってどうよという問題もあるけれど、つまらないよりは面白い方がいいと思うのは人情。

 

それでいうと、この作品は至極オーソドックスで奇をてらったりせず、まことに直球勝負なドキュメンタリーであった。八幡堀で30年間ボランティアでゴミ拾いをしている爺さんとか、法事のたびに近所の農家からもらった豆を煮て食膳に供している住職の奥さんの話とか、あるいは月曜から金曜まで体操やら合唱やら社交ダンスやらやらに忙しいお婆さんの生活とインタビュー、といった具合に、個人個人のエピソードが断片的に連ねられている。

 

なにしろオープニングを見た瞬間から、ああ、この懐かしい感じは中学校の視聴覚教室で見せられた教育ドキュメンタリー以来だなあと。だからはっきり言うけどこの映画は、最初からこの映画を好意的に見ようと思って見に来てる人、少なくともこの映画に関心を持って見に来る人以外には、けっこう難儀な代物だと思う。なにしろ僕をこの映画に付き合わせた張本人の妻自身、気がついたらときどき隣で寝てた。まあ、僕だって中学の視聴覚教室では部屋にカーテンが引かれると同時に爆睡していたからな。

 

ところがところが、この映画がかけられているブースに入って驚いた。というのも僕はいままで、マイカルであんなに客の入ってる映画を見た覚えがなかったからだ。もちろん連休中の東映漫画まつりとかどらえもんみたいなのは知らないけど、そもそもその手の映画を僕が見る機会はない。一般映画だという分類で考えれば、このマイカルで『タイタニック』も『アバター』も、あんなには入ってなかったはずだぞ。

 

映画が始まり、大まかな内容の把握が出来るとその理由はすぐ腑に落ちた。だってあれ、地元(八幡)の話だもん。NHK素人のど自慢なんてあんなもの、いったい誰がわざわざ見に行くのかと思うようなイベントが、なぜかいつも開催会場は満員で盛り上がっているのと同じ理屈である。みんな地元の人間が出てるから見に来てるのだ。

 

だからね、もう来てる客の中には明らかに普段の映画の観客とは違うタイプの人もいる。ああ、この人たちは映画館で映画を見るなんて恐らく40年ぶりくらいだろうなとか思えるような。……てゆーか、僕の一列前の席で横にずらりと並んで座っていたおばちゃんたち、あんたらだよっ()

 

この人たちはなんか映画が始まる前から手元をもしゃもしゃさせて、それは映画が始まってからも一向に収まらない。もしかして何か? 弁当か何か喰いながら映画を見てるのか!? あんたらこれ、物見遊山のつもりかっ? と、疑う間もなく、画面に八幡の光景が映し出されると、これはどこやとかあそこやとか、まあ、耳障りと言うほど大きな声ではないが、一列後ろの人間にとっては十分耳障りな声量で、ぼそぼそ会話をしてくださる。

 

どっかのお寺が画面に出ると、あ、これは何とか寺や、え? 何とか寺か? そうや、何とかさんのとこやないか、ほれほれ、出てきはった、何とかさんや、ああ、ほんまや、ほしたらここのごえんさんも出てきはるかいな、ここのごえんさん、死なはったやろが、あれ、そやったかいな、等々。

 

……かくしてその、ご縁さん(真宗の住職を滋賀辺りでは一般的にこう呼ぶ)、映画の中ではぴんぴんして出ていらっしゃったこの人がすでに亡くなっているということを、僕はこの映画のエンディングではなく、画面に登場した瞬間に知った()

 

ちなみに僕は普段、映画を見ているときに私語をするような客が近くにいたらまず間違いなく席を替わる。若い頃には腹に据えかねて注意したこともあったが、実際にはそのことで余計にいらいらすることが多く、結果的に映画を楽しむどころの話ではなくなるため、いまでは滅多に迷惑な相手と関わることはしない。

 

ただしこの映画に関して僕は、実は前のおばちゃんたちのことはほとんど気にならなかったし、腹も立たなかった。なぜならマイカルで初めて見る、7割くらいの客席を埋め尽くした観客たち全員、何やらぼそぼそひそひそ喋りまくってる声が座席のあちこちから聞こえてきたから……というより、この映画を見に来た客のほとんどは地元の人間で、彼らは僕の一列前のおばちゃんたちとほぼ同様の楽しみ方をしていた、つまりある意味、この映画に関しては、アウェーは僕たちの方だったからだ。

 

僕が腹を立てるのは、映画館に来ていながら、映画を見ないで自分たちの勝手な話をしたり映画に関係ない行為で他の観客の集中力を削ぐ連中だ。その映画を存分に楽しもうという気がある客なら、もともと僕はそれほど気にするたちではない。なぜなら、映画はそもそもの成り立ちからして見世物だった。元来、という話をするなら映画はお行儀よく座って鑑賞する芸術作品などではなかったのだ。

 

昔、アメリカの映画館に入ったとき、向こうの客のリアクションの大きさに驚いたことがある。とにかく彼らはうるさい。ウケるところでは大笑いするわ、拍手はするわ、しまいには立ち上がってスクリーンに向かってわけのわかんないことを叫び出したりして、やかましいことこのうえない。きっとあれは何か映画のギャグに対して突っ込んでたんだろう。念のために言っておけば、もちろんそういう観客がいる映画は、ノリのいいアクションかコメディであることがほとんどだが。

 

『フェーム』という映画を見れば、主人公グループのうち(あれは青春群像ドラマだった)一組のカップルがデートで『ロッキー・ホラー・ショー』を見に行く場面があって、そこではその劇中劇である映画と一緒に、その情景に合わせて傘を差したり、セリフを観客全員が唱和したりと、僕らにしてみれば初めて見る映画の鑑賞法に軽いカルチャーショックを覚えたものだけど、なるほどそういう楽しみ方もあるのかと僕は現地で初めて知った。

 

つまり、この『結い魂』という映画を八幡で見るということは、そういうことなのだ。もちろんこの映画は他の地方でも上演される機会があるだろう。そのとき、その土地の人々がどんな反応をするかはわからないが、少なくとも僕は、八幡マイカルでこの映画を見てよかったと思う。その映画の中の登場人物と何かつながっている感覚が、このブースの中にそこはかとなく漂っている感覚を感じられたから。その意味でこの映画は、確かに生きている映画、と言っていいだろう。

 

でもそれと、見て面白い映画かどうかというのは別問題。魚だって生に近いなら一番おいしいとは限らないからね。

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