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北三陸は不穏の予感

まさか、こんな感じで「あれ」が来るとは思わなかった。あ、今日は『あまちゃん』の話なので見てない人には意味不明かも。

 

先週は週明けからなんと感動の嵐だった。まさか、こんなドラマで引っかかるとは、と唇を噛みながらそれでも目頭が熱くなる感覚を何度か体験した。そりゃもうね、長丁場ものの盛り上げ方の画に描いたようなパターンを実際に幾つか使いながら、つまりそれはお約束と言い換えてもいいのだけれど、ともあれいままでの懸案となっていた伏線を次々と回収していく、その手並みは、お見事! と、素直に感心する。

 

もちろんここまでこのドラマを飽きさせずに引っ張ってきたからこそ、ああいう展開が効いたんだろうが、だったら気まぐれな視聴者の興味を引き続けてここまで持ってきた技量こそ脚本の力というものだろう。僕なんかこれまで最高のクライマックスを用意していながら、そこに至る前に打ち切られた話が何本あることか()。本来のラストまで見てくれてたら最高に面白かったのに~というのは、最高にかっこわるい作家の言い訳である。

 

ともあれ先週はこれまで溜めに溜めてきた人々の確執を、あ、ちなみにあのドラマのテーマは、表側テーマはもちろん素直でわかりやすいテーマがあるけれど、その表テーマの彩りをさらに濃くするために設定された裏側テーマの一つは「確執」だ、母と娘あるいは夢と現実、師弟の要素もちょっぴりあるかな、ともかく、そのそれぞれの確執の溝に溜まった感情の澱を、先週は一気に吐き出させた。感動ってのは射精に似ているからね。溜めた分量が多いだけ、快感は倍加する。

 

さて、毎日見ている人ならわかる通り、ああいう形で第一のクライマックスを展開させておいて、次週、もう明日の話だが、ついにあの震災が描かれる。

 

この脚本が今週うまいな、と思ったのは、いわゆる第一クライマックスの感動週間にしておきながら、その週明けからいきなりタイムカウントを入れ始めたことだ。僕らは、いや僕は、先週の月曜の朝にドラマ冒頭でその日時を見た瞬間、軽く息が詰まる感覚を覚えた。あれはただのタイムカウントではない。日本人ならそれが、あの日へのカウントダウンであることを誰でも知っている。

 

毎日感動させながら同時にカウントダウンを見せる。原爆映画なんかによくある、麻生風に言えば「手口」だけれど、客の誰もがこの後、画面内の現実に起きる凄まじい運命を知っていて、なおかつその直前までの平穏な日常、笑いと優しさに溢れた人々をひたすら地味に描くことでさらに悲劇性をあおるというやり方はある種卑怯な手法である。このドラマではわざわざそこに、確執の解消、すなわち人と人とが赦しあうという、最も心洗われるエピソードを持ってきた。ほんとにね、最高にずるいだろ、これは()

 

もちろん僕はこのドラマで震災が描かれることは知っていた。そのための舞台設定だし、時間設定だもの。ただし宮藤さんにしてみれば、このドラマのテーマそのものには、表側も裏側も、震災はまったく絡んでないはずだ。ただ、東北を舞台にした話を書いていて、あの震災に触れなきゃ世界が全部嘘になるというだけの話である。震災そのものを描くことがテーマではないにせよ、震災は戦争と同じく、決してなかったことには出来ない日常の記憶の一つであるからだ。

 

妻は来週の予告を見ていて、いきなり泣き出してしまった。滋賀に住む僕らは「見かけ上」あの震災の被害は何も受けてないはずなのに、それでもそれだけのインパクトと傷跡を、僕らの心に残している。どう描くにしろ、なかなかデリケートな部分だし、難しい。たとえばムーミン谷の住人のようなあの北三陸の人々は、誰か死ぬのかどうか、その問題一つとってもね。

 

いっそ『カーネーション』なら、そこは楽かもしれない。でも『あまちゃん』の世界はどうだ? 描き方によっては、これまで積み上げてきた世界観が一気に変質する可能性だってある。まったく、ひとごとながら悩ましい。ま、どうせ明日の朝には答えが出てるけどさ。

 

僕の予想を言えば、週末あれほど不穏な雰囲気で東京へ送り出したユイちゃんは、多分大丈夫だと思う。電車に乗ってる最中に地震に襲われて、無事に津波から逃げ切った乗客の話もあるし。そこは初めて大吉が決断力を見せて活躍するのではないかと期待。それにあのドラマでは若くて可愛い女の子を死なせるような展開にはしないと思う。ま、渡辺えりならどうでもいいというわけでもないが()

 

すると実質的に気になるのは夏さん一人ということか。ちいとばかし嫌な予感は、何週か前にこの週はダレ週だと僕が決めつけた、夏さんと橋幸夫が出会う話。わざわざ夏さんを東京に来させて、人間関係の誰と誰かに影響を与えたわけでもなく、ただ橋幸夫に出会って帰って行った

 

どうでもいいだろ、そんな話と思っていたが、まさかそれは、夏さんに思い残すことをなくさせるためか!? なんてね、もうただの朝ドラファンのジジイとババアが、朝ご飯を食べながら話す格好の話題になっている。とりあえず、明日の朝を待とう。

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