乳首のご利用
月曜から東京に来ている。今回はほぼプライベート滞在。
上京当日の夜は友人たちと歌舞伎町で会食。そもそも今回の上京の目的は、先年急死した古い友人を偲ぶ集まりに参加するためだったので、これに出てしまった後は差し当たって東京でやることは何もない。
実を言えばその集まりに出るついでに、ぼちぼち収入も増やしたいから2、3社くらい新規営業に回るつもりだった。だからホテルの予約は3泊も取ったのだ。が、結局上京の日が迫っても企画がまとまらず、仕方なくどこにもアポ取らず出てくることになった。そのため結果的に上京当日に飲み会に出たら、あとまる2日は特に用事がなくなってしまったというのがことの真相()。つくづく仕事の遅さが身に祟る。
とはいえそこは東京のことなので、この機会に長らく懸案だったことをちょくちょく片付けに回ってる。月曜も友人たちと別れた後、そういえばずいぶん前にゴールデン街のママと約束していたことがあったため、ふらりと顔を出すつもりで歌舞伎町から区役所通りに向かい、風林会館の前を歩いていたら、客引きに声を掛けられた。
あそこはもともと客引きがたまり場のように群れている場所で、僕があの街に出入りするようになった40年近く前ときたら、前に立ち塞がる、追っかけるは当たり前、腕を掴んだり肩を抱き寄せたりするような人たちもいたものだ。
あの頃から考えれば昨今の客引きは本当におとなしくなった。その部分に関しては都や警察の規制もありがたいが、規制あるところに工夫ありというのは、僕がかつて生業としていたエロ本業界で古くから言い習わされた格言。で、最近の客引きはボディタッチや客についていくような行為はもちろん、卑猥なサービスを連想させるような言葉もNGとなってるらしいのだ。
その「指導」のおかげかどうか。月曜の夜に会った客引きは、その前を通り過ぎる僕に対して、
「乳首のご利用、いかあっすかあ~?」
と、そう、まるで六合目の標識の前を歩く富士登山者に、杖でも貸すような感じで至極自然に声をかけてきたのである。
「は?」
さすがに思わず立ち止まってしまった。いや、ここは立ち止まらざるを得まい。だってこの客引きは、いま会ったばかりの僕に対し、「乳首のご利用」を勧めてきたんだぜ。思えば東京、滋賀の片田舎からおのぼりさんしてきた僕から見れば、実にハイパーテクノシティ、もはや東京にないものは世界にないとすら言える街になりつつある。その極めつけがこれだ。利用できる乳首・・・・何だ、それはっ!?
まあ、真面目に考えれば(そもそも乳首の利用について真面目に考えること自体どうかとも思うが)、とにかく筋道立てて考えると、以前は恐らくこの客引きたちは「おっぱい、いかあっすかあ~?」てな感じで声をかけてたんだろうな。「おっぱい、いいのありますよ」とか、「おっぱい、新入荷!」とか、そんな感じでね。
あいにく僕は、このおっぱい期は直接体験してないが、この少し前、もう10年くらい経つが、上京頻度が高かった頃にこの辺りをうろついてると、そのものずばりの4文字言葉で客引きに声を掛けられたりした。だからいまは4文字はもちろん、おっぱいもNGワードになってるんだろう。その延長上に「乳首」という単語が出現したわけだ。
でもって、この「乳首」という言葉。確かにこれだけなら「おっぱい」などと違い、男性にもあるものだから、格別これが卑猥な連想をさせる言葉だとは言えない。でもあんな夜道で、あんな怪しげな客引きにそそっと囁かれると、なんだか俄然、そうかあ、そういやずいぶん乳首って利用してないよね、という気分にもなってくる。いや、でも人が乳首を利用するケースとして普通連想するのは、授乳するときしかないはずで、他にあれを利用して何かするようなことって、別にないはずなのだが。
でもそんな不埒な客引きたちのせいで、いつか「乳首」もNGワードになってしまうかもしれない。そうしたら次はどんな誘い方をすればいいのだ? たとえば「粘膜のご利用、いかあっすか~?」なんて言い出したら、もう途端に卑猥だ。「味蕾、使えます」なんてのも、味蕾の正体が何かはっきりした時点でアウトだろう。
そう考え始めると、客引きたちは何気ない言葉を卑猥化させる稀代のパフォーマーとも言えよう。朝ドラでやたら連発されている「まめぶ」だって、客引きが夜道で「まめぶ、あります」なんて声を掛けてきたら、もうそれだけでこちらの脳はよからぬ妄想ではちきれてしまいそうだ。そうなったら今度は「まめぶ」という言葉を規制するのか。
僕が関わっていた頃のエロ本業界では、何度も様々な規制や取締の網がかぶせられようとしたが、やっている側の人間は、そのたびその網目をすり抜けるような方法を考え出して生き延びた。それは同時に、エロの表現方法を結果として、深く広く拡大させる役割も果たした側面があると、僕は思っている。そしてそれは規制者の意図とは無関係に、さらにとりとめのない制御不能なものになっていく。「乳首のご利用」という意外な言葉に、もうそのとりとめのなさと、制御不能なエロの片鱗が現われてるじゃん。
客引きの言葉に振り返った僕だったが、もちろん客引きの誘いは断った。あいにく、乳首なら間に合ってる。
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