ツッコミ精神、健在
過日。母のホームに行く。この秋口以降、母は何度か体調を崩し、もしかしたらそろそろ母の頑張りにも限界が近いのではないかという不安もあって、こちらはたとえわずかな時間でも、なるべく母の顔を見にホームに立ち寄るという習慣を作りつつある。
この日は、ちょうど僕の誕生日だった。ホームに行くと母は夕食を終えた直後だったか、個室ではなくまだみんなと一緒にリビングにいた。とはいえ目は完全に閉じられ、口はぽかあんと開けたまま、車椅子の上でもはや完全睡眠状態。一応僕は誕生日の報告をするため、母の耳元に顔を寄せ、少し大きめの声で囁いた。「お母さん、今日は僕の誕生日やで……見てみ、僕も大きいなったやろぉ?」
だが母は何の反応も見せず、ぴくりとも動かない。これもいつものことだ。構わず僕は母の耳元で「Happy Birthday」の歌を囁くように歌い続ける。「ハッピバースデー、ディア、ぼ~く~♪」と歌ったところで、スタッフの一人が話しかけてきた。
「おいくつにならはったんですか?」
え? 僕!? ん~と、僕はね、……今日で満の43(^^)v
言った途端、いきなり母が両目をひんむくように開いて僕を見た。なんだかそのまま喋りだしそうな勢いだったから、ついぎょっとして、思わず僕は母から体を離した。
「あら、起きはったんやねえ」と、微笑を浮かべてスタッフが近づいてきたが、僕にはわかっていた。母は寝ていたのではない。狡猾な母のこと。あれは絶対寝たふりをしていただけなのだ。そしてひたすらチャンスを待ち、僕に絶妙のタイミングでツッコミをかましてきたに違いない。さすが母。ボケても腕は落ちてない。
昔から母は、父のボケに対する最高のツッコミ役だった。僕ら宇治谷家の子どもは、あの頃、関西の多くのぬくもりある家庭でそうだったように、漫才のような父と母の会話を聞きながら育ってきたのだ。
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