右京介、逝く
昨日から仕事が立て込んでいて、もっとも仕事は1本しかないから主にこういうときは精神が立て込んでいるわけだが、そんなこんなでついさっきまで林隆三さんが亡くなったことを知らなかった。
あっ、と思ったのは、この人に関してはもちろんベテランバイプレーヤーでもあるし、僕が物心ついた頃から様々なドラマや映画で顔を見ていたはずなんだけど、実は僕はこの人を見ると、もうたった一つの配役しか思い出せない。てか、それ以外の記憶がほとんどない。僕にこの人の顔と名前を強烈に印象づけた作品とは、いまから43年前の1971年、NHKで放映された時代劇『天下御免』である。
この作品のことは、このブログでも過去に何度か触れてたはずだが、あえて一言で説明すれば、とにかくハチャメチャでアナーキーでかっこよくて、しかも社会と血が出るほどに切り結んでいこうという覚悟と迫力に満ちていた。ま、あの頃はこれに限らず、そんなドラマは溢れるほどに次から次へと製作されていて、僕らは当時の大人たちが本気で作ったとんがったエンターテイメントを浴びるように楽しんだのだけれど。
僕がわりと頻繁に過去のドラマを褒めるのは、単なるノスタルジーから来る感傷だけで言ってるわけではなく、もちろんいくぶんかはそんな気分もあることは否定しないが、特にこの70年代前後のテレビ界が輩出した傑作の数々には、確かにある種の覚悟と迫力を感じさせるものがあった。その視点からだけでいまのテレビドラマを評するなら、はっきり言ってほとんど幼稚園児向けのようなドラマばかりである。おかげで日本人も概ね劣化してきている、というのは僕個人の極めて偏見に満ちた見解。
さて、『天下御免』の話だった
あえてドラマの内容には詳しく触れないが、これを書いた早坂暁という人は、後の『夢千代日記』や『関ヶ原』を書いた印象から言えば、もろ重厚感あふれるベテラン作家で、この人が書けばサザエさんだって文芸作品と呼ばれるに違いないと思わせるような人だが、つまりそんな大先生が書いたとはとても思えない、軽妙洒脱というか変幻自在というか、ギャグと実験的演出に満ちあふれた、いままで誰も見たことのない時代劇を作り出していた。
主人公は林隆三ではなく、当時は好感度溢れる笑顔を武器に爽やかな青年俳優だった山口崇が演じた平賀源内である。林さんは、何をやり出すかわからない源内のお目付役として、藩から派遣された武士で、万一源内が藩の命令に背いた行動をすれば直ちに斬り捨てるという役目も負っている小野右京介という剣の達人だった。が、やがてこの二人は親友となり、ともに藩を捨てて江戸に上り、そこでまた様々な事件に巻き込まれるという展開になっていく。
この無骨な武士の役が、実に林さんの風貌や声によく合っていて、この二人のコンビの掛け合いもまた実に絶妙な間合いで笑わせたり、感動させたりしてくれた。
ちなみにわりと最近まで僕はずっと勘違いしていたのだが、この『天下御免』では源内さんと右京介のコンビに、やがてもう一人、いまは秋野大作と名乗っているが当時は確か津坂匡章という芸名だった役者さんが演じる稲葉小僧という泥棒が仲間に加わり、いわゆる御免トリオを結成することになる。僕はこれを一番最初の『ルパン三世』のチーム構成に影響を与えたのではないかと勘ぐっていたのだが、実は『天下御免』とファーストルパンは同じ年の放映なのである。しかも原作となるモンキーさんの連載はその何年か前から始まっている。となるとこれは、完全に僕の読み違いというものだろう。
ただ軽妙なストーリー展開は、アニメのルパン三世と雰囲気が凄く似ていることもあって、何より僕はあの頃、もしもルパン三世を映画化するなら、次元大介は絶対林隆三でやってほしいと激しく妄想していたものだ。……実際に作られた実写版ルパンでは、次元の役を田中「じゅん~!」邦衛がやっていて、作品自体、思い出すだけで吐き気を催してきそうな何とも言えない珍品ではあったけれどね。
林さんは70才で亡くなったとか。まだ全然若いじゃんとも思うが、最近は長く生きていたからって、別に僕らの家族でも親戚でもないわけだから、死んだときに名前を思い出して、ああそんな人もいたなあというだけの話である。ただ、御免トリオの一角がいなくなったわけで、誰か山口崇にコメントを取りに行ってないのだろうかと、ちょっと気になったりはしている。
でも40年くらい前にルパン三世を実写で撮って、次元大介を林さんがやっていたとしたら、僕の記憶に残る林隆三は、小野右京介だけではなかったかもしれない。
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コメント
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「あびるように楽しんだ」というのが、わかるような、
うらやましいような。
思い出したといえば、「ゲバゲバ90分」。
投稿: Takaishi | 2014年6月15日 (日) 16時13分
うん、十分にうらやましがられる内容だったと思
います。脳天気なドラマだってもちろんいっぱい
あったけど、時代劇でも刑事ドラマでも、ホーム
ドラマやアニメでさえ、いわゆる「硬派」な内容
の作品はけっこうあって、一筋縄ではいかないも
のが、やはり長く印象に残っています。
僕のドラマトゥルギーは多分10代の頃に吸収した
ものの影響が一番強くて、「なみだ坂」にやたら
ダークエンドが多いのも、その影響かと…(^0^;)
投稿: ujikun | 2014年6月21日 (土) 04時33分