Nスペ恒例敗戦日周辺の番組あたりから
録画しておいたNスペ『ペリリュー~狂気の戦場』を見る。
ATOKの変換にさえ出てこない(ちなみに普通にATOKで「ぺりりゅー」を変換すると「ペ李リュー」になる。なんだこの韓国人と中国人の混血かあっ?みたいな名前は!?)この島の名前を、僕はスピルバーグやトム・ハンクスが制作に関わった『Band of Brothers』のスタッフが手がけたという以外に特に関心のなかった『The Pacific』を見て初めて知ったが、それにしてもこれほど凄まじい戦闘が行なわれていたとはまったく知らなかった。玉砕戦法は悲劇だが、悲惨さという意味で持久戦命令はそれ以上かもしれない。
米国で保管されていたこの戦場の記録フィルムを放送したのは評価できる。顔はぼかされていたが、米兵も日本兵も死体の映像がごろごろ出てくる。このことに関し、番組冒頭で特に注意するよう触れられてもいなかったが、あるいはこちらも最初はながら見していたので見落としたのかもしれない。津波とかの映像が出てくるドキュメントでは、いまでもけっこう番組最初にお断りを出すのにね。
太平洋戦争の戦史マニアなんかなら有名な戦場かもしれないが、ペリリューは日本がグアムやサイパンを落とされた後、米軍が南太平洋方面からフィリピンに反攻作戦を開始した際の、最初の砦となった戦場だ。
この戦闘前、日本はすでに食料や弾丸の補給にも事欠く状態で、米軍が攻めてきたらとりあえず守備兵はありたけの銃弾を撃ち尽くすと、あとは銃剣で肉弾突撃をするという玉砕戦法を、こんなもの戦法とも作戦とも言わないが、とにかくそんな自殺攻撃をするのが常となっていて、米軍はペリリューに来た頃には、すっかり日本人はそんな気○いみたいな戦い方しかしない民族だと思っていたフシがある。
ま、あの頃の日本軍がほぼ気○いだった点については異論がないが、問題は大本営が、この頃にはさすがに玉砕で日本兵を全員死なせて終わり、では敵にもほとんどダメージを与えないどころか、勝負が早く着きすぎてまずい、と気がついたことだ。そこでペリリュー守備隊には玉砕を許さず、一日でも長く米軍を足止めするよう、持久戦法を取れという命令が下された。補給はほとんど途絶えているというのにだ。これがどれほど残酷な指示かということは、この島の戦い方を、さらに硫黄島へと続く激戦の記録を見れば、かけらくらいは想像できる。
米軍は精鋭、第1海兵師団を中心とする5万近い将兵で、豊島区くらいの面積しかないこの島に乗り込んでくる。島を守る日本軍はほぼ1万人。米軍側は3日で片がつくと本気で思っていたそうだ。結果を言えば、最強を謳われた第1海兵師団の損耗率は50%を超え、日本軍を完全に沈黙させるまで2ヶ月半かかった。日本兵は、運良く(?)捕虜になった者も200名ばかりいたものの、戦闘員で生き残ったのはわずか30数名だったという。1万人の中の30人。無理だ。僕なら絶対この中には入れない。
もちろん米側の記録だから当然ではあるが、この記録フィルムに出てくる死体は圧倒的に日本兵である。昔の粗い粒子のフィルムとはいえ、戦車の下敷きになってたり、海中で浮かんでいたり、あるいははっきり頭の方は映されていなかったが、後ろ手に縛られた上に両足も拘束されたまま俯せに倒れていた日本兵の姿も数人映されていた。ナレーションによれば頭部を切断されていたものもあったという。恐らくは投降しようとして味方に殺された日本兵だ。当時の日本兵、戦場で死ぬのは敵兵の弾とは限らない。
ある場面では、武器も持たずほぼ丸腰の状態で腰まである海の中を歩いていた日本兵が、多分重機関銃あたりの銃撃を受けて木端微塵になる映像もあった。あれもこの戦場から何とか逃げようとしていた人じゃないかな。目立つのは丸焼きになった日本兵の死体だ。この戦闘から米軍は、穴ぐらに潜む日本兵に向けて火炎放射器を本格的に使用するようになった。炎は130メートルばかり飛んだという。
ただし米軍の記録フィルムがちゃんとしてるのは、米側の被害もしっかり記録していることだ。上陸作戦時の犠牲者ばかりか、負傷者を救出しようとして狙撃される兵士の映像、さらには戦闘中に精神に異常を来したと見られる兵士の映像も残されている。日本兵と対峙している最中にこういう状態になった兵士は、仲間の手で処分されたという証言もある。敵も味方も地獄の窯の中である。
こういう映像や証言をまともに受け止めて考えられる理性と知性があれば、誰がどんなきれいごとを言おうが、戦場とはどのようなものであるかが瞭然と認識できる。戦地を逃れてきたという設定のお年寄りや赤ん坊を抱く母親のイラストを恥ずかしげもなくパネルにして、戦争状態を説明しようとするどこかの脳天気には、恐らく存在しないものだろうが。
番組は日米それぞれ齢90を過ぎたこの戦場の生存者に話を聞きに行く。70年も前なのに、憎悪の連鎖の記憶を物語る彼らの話は生々しい。残り時間はあってもせいぜい数年、長くても十年以内に僕らは戦闘(ころしあい)を経験した歴史の語り手をすべて失うだろう。会長はあんなだし、経営委員とやらの中にもどうやら先に述べた理性も知性も期待できない連中がまじっているようだが、それでもこういう番組に関わる現場のNHKスタッフには本当に頑張ってほしい。受信料は、まだ払ってもいいと思ってるからさ。
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